意味をあたえる

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本をたくさん読む

私は「おすすめの本」というタイトルを見かけると、ついつい開いて読んでしまうが、それで実際に買って読むということはあまりない。あまり「おすすめ」されないほうが読むような気もする。昨日も「数千冊読んだ」と豪語された記事を読んだが、読みたいと思う物がなかった。というか、インターネットというのはコアの人格でもあるのか、必ず挙げられる作家名、作品名というのがある。一種のお作法だろうか。そういう中、つい先日私の好きな木下古栗という作家が紹介されていて感動した。私の知る限りでは初めてである。私もいつかこのブログでも取り上げよう取り上げようと思っていたが、いまだに書いたことはない。そんな作家があと何人かいる。お気に入りだから教えたくないというのもある。

それで私がブログ等で紹介された本を読むかどうかについて、実際は読んでいるような気がしてきたが、つい昨日読んだときの影響なのか、今まで一冊も読んでいないような気になっていた。

私の観測範囲でこの人はかなりの読書家だと思うのは、ブロガーの目氏である。私は目氏を文字でしか知らないが、私のインターネット以外の身の回りでは本をまともに読む人が自分の両親と妹しかおらず、町の本屋など私のためにあるのではないかと錯覚するくらいなので、目氏は私の生涯でいちばん本を読む人と言ってもいい。ブログでは本に限らず映画や音楽も紹介されているが、私の知っているタイトルであることはほとんどない。私のイメージだと大人三人分の知識量である。目氏のブログは定期的にテーマが変わるが、全体のノリとしては軽く、これが軽薄、軽率にならないのはこの知識量の裏付けがあるからである。

そんな目氏にあるとき一冊の本を勧められ、それはイタロ・カルヴィーノの「レ・コスミコミケ」という小説で、当然私は聞いたことのない名前で、いっしゅん目氏がデタラメを言ってからかっているのではないかと思った。名前の語尾に「ーノ」とし、タイトルの頭に「レ・」とつければ、あとは何を並べたって南ヨーロッパっぽくなるのだから、いかにも怪しい。そう思ってアマゾンで調べたら実際にあったので私は購入した。今となってはどういうやり取りで勧められたのか、まったく忘れてしまった。

今、文庫を手に取ってみたら「ハヤカワ文庫」とあり、これはSFの文庫である。私はSFはあまり読むことはなく、六年くらい前に「星を継ぐもの」を読み、その前は「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」だった。アンドロイドはたしか刑事が主人公で、上司の警官とのやりとりで、明らかに上司がおかしくなってしまう場面があった。そのおかしい、が例えば発狂するのような物語の内側のおかしさではなく、作者が書き間違えたのをそのまま直さなかったような、メタ要素を含んだおかしさであり、当時の私はどうしてこのようなやり取りなのか理解できずに、勧めてくれた当時のドラムの先生に訊ねたら、
「ディックは頭がおかしいからね」
と、まるで友達のことを言うみたいに言った。ディックとは、アンドロイドの作者である。それから十年以上経ち、そういえば「モロイ」の第二部も刑事のところに、こちらは上司じゃないが上司の連絡係がきて、それは比較的まともなやりとりだったかもしれないが、小説自体がまともじゃない。最初私は七曲署みたいなのを想像していたが、実は刑事とは私一人、というか上司も連絡係も存在しないとか、なにしろいわゆる「設定」とよばれる足場のような物が豆腐のように不安定で、足をふんばるこちらが時として馬鹿馬鹿しくなるのである。

というわけでアンドロイドをまた読み出すことにした。