意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

虫ゴム

私がジーザスクライストスーパースターを聞きながら仕事をしていると、事務の女性がやってきて、
「すみませーん、虫ゴム2つください」
と言ってきた。小走りで。私は、大抵事務の女性は私の上司に用があってくるので、私は今回もそうだろうと思っていたら、よくよく考えるといつもとは違うドアからやってきて、私に声をかけたのだった。しかし女性は実際虫ゴムがなんなのかは知らず、実は「これの新しいやつ」と古い虫ゴムを手にやってきたのだった。私はわざわざ段ボールを取り出して、この行動すら私は芝居地味てて嫌だったが、段ボールの中には虫ゴムがびっちり入ってて
「自転車乗ります?」
なんて聞いていた。乗ります、と言うのならこの虫ゴムは普通より強度があると聞くのでプレゼントしようという魂胆だ。
「乗らないです」
とあっさり言われたが、結局私は虫ゴムを4つ渡した。もらったところで、それがどこにつけるのかも聞いていないのだから、彼女にとってはゴミを押し付けられたのと同然だが、
「ありがとうございます」
と言って去って行った。小走りで。しかしこの「ありがとうございます」は先の2つに対する礼なのかもしれない、と後から思った。だけど、その2つのお使いに来たのだからきっと取り付けるところまで目にしたら、子供の自転車につけようとか思って、それならやはり後の2つのお礼ととってもいいかもしれない。

さらりと「子供」なんて書いてしまったが、彼女は既婚者で子供もいた。夫も同じ会社にいて、しかし別の事務所なので、私は話したことはない。見たことはある。既婚者だから、私は自分の行動について、嫌悪感を抱いた。しかし独身者でも、やはり嫌悪感を抱くだろう。むかし村上春樹が「既婚者に親切にすると、厄介なことになる」書いていて、それが私の心に刻み込まれていて、既婚者に冗談を言うだけで勝手に気まずくなる。しかし、村上春樹の時代とは違うのだから、今は男女が言葉を交わして性行為に至るまでの距離は、今の方がずっと長いはずだ。現に私には下心はまったくない。いや、だから厄介なのだろう。下心があれば、厄介事もおりこみ済みだから、厄介ではないということだ。

しかし私はいま書きながら、私はもしかしたら既婚女性とか子持ちの女性が好きなのかもしれないな、とふと思った。世の中には処女が好きという男性が少なからずいると聞くが、私は以前、彼氏のいる女の方がいいという男と飲んだことがあり、彼の理屈は次のようなもので、彼氏がいるということは、人格とか体つきが保証されているということだ、ということで、なるほどと思った。処女が好き、というのは気持ちはわかるけど一生処女というわけにはいかないので、遊び相手なら処女、というのが本来ではないだろうか。結婚とか、長く付き合うなら、やはり既に彼氏がいるとか結婚している人の方が、よほどハズレを引く可能性が低い。