意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

マニュアルのある会社に勤めたことがない。

おととい、会社の人とH・Kくんと3人で、BMWのネオンが見える駐車場で話をした、と書いたが、やがてBMWのネオンが消え、私はもういい加減疲れたので、帰りたくて仕方がなかったが、疲れているのはもうハナから同じで、とにかく会社の人、もうこの人の仮名を考えるのも面倒なので「会社の人」で通すが、この人が嫌なので素早く帰りたい。さりげなく疲れてるアピールとして、その場に座り込むが、私はいつもミスタードーナツでもらったピングーの袋にお弁当と水筒、それと今読んでいる本(小説、世界を奏でる音楽・保坂和志著)とコルセットを入れているのだが、ピングーの袋は何年も使っているから持ち手の部分がぎざぎざしてしまい、指の内側に食い込んで、空のお弁当箱といってもやはり重くてつらい。そうしたら、会社の人はなんと自分まで座り込み、私はむかっとしたから、すぐに立ち上がった。その人も立った。

にも関わらず、私は自分から
「そろそろ帰りましょうか」
と言い出さなかったのはなぜだろうか? そうでなくても、その手に下げた袋を、すぐそばに停めてある車に置いてくるとか、自分の負担を軽くすることもせずに、最初は攻撃的な言葉のやりとりばかりだったのが、段々と熱も冷めて落とし所も見えてきて、私が営業所の人の悪口を言い始めて次第に世間話、みたいな流れに身を任せたのはなぜだろう。

私の左ポケットにはiPhoneが入っていて、もう最初の方からバイブが震えっぱなしで、こんなにお構いなく鳴らし続けるのは妻に決まっているのだが、それを無視し続けていて、しかしそれを無視しないで出れば、「そろそろ帰ります?」みたいなきっかけになるのに、私は何かが壊れてしまうような気がして取り出すことができない。やがてあまりにしつこいから後ろを向いて出て、
「ごめん、後でかけなおす」
と緊張感たっぷりを装って、ひとこと言って切った。

そういえば私が初めて彼女ができたとき、それ大学の頃だったが、初めての彼女ができる前からやってみたかったことがあって、それは多分誰かがやっていたのを見たからやりたくなったのだが、友達同士で遊んでいるときに、彼女からの電話に出るというものだった。それは単に出るだけでなく、できればもしその場で座っていたのなら立ち上がり、例えば店の中だったかは外に行くとか、そういうのだ。

だから彼女ができたときには、別に頼んでまでそれをやろうとは思わなかったが、友達の家でゲームをしていたら、携帯が鳴って、私はよし来た! と思い友達の部屋の障子戸を開け廊下に出た。廊下はきしんだ音を立てた。その友達とは小学校の頃からの仲良しで、正確に言うと小学1年からで、私たちの仲の良い期間は小1ー小2、中1、高1ー、という具合だったが、該当期間はほとんど毎日のように家に遊びに行った。だから、彼の家の間取りもよく覚えている。1階が3部屋で、2階が2部屋だ。2階の2部屋は彼(シマノと名付けておく)と、シマノの姉の部屋となっていて、しかし、そうなると夜シマノのお父さんとお母さんはどこで寝ていたのだろう? 1階の3部屋とは、客間と居間と台所だった。今は知らないが、客間には冷蔵庫があった。私が知らないだけで、シマノの家にはもっと奥の部屋があったのかもしれない。

それで、電話がかかってきたから、私は廊下に出たわけだが、シマノの家は結構古く、私の靴下の下で板がぎーという音を立てた。廊下を逆戻りするとやがて階段があり、階段はこちらから見て右にカーブしており、昔シマノのお父さんが、よく下からシマノを大声で呼びかけていた。反対側へ行くと突き当たりがトイレとなっており、このトイレではおしっこはしていいが、うんこをしてはいけない決まりとなっており、あるとき別の友達がうっかりうんこをしたことがあり、シマノはその時
「2階じゃうんこしちゃダメなんだよ」
とその人のことを怒った。私は実はそのことを知ったのはその時が初めてで、うっかりうんこをした友達を気の毒に思うとともに、私はちゃんと下のトイレでしようと思った。