意味をあたえる

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父について(2)

大学を卒業した頃、友達が新しい飲み屋を見つけたというので行ってみると、そこが偶然にも以前の父の行きつけのお店であった。西口の、自転車置き場のそばにある店だ。まっすぐ行くと通りに出てすくそばにトヨタレンタリースがある。そのまま行くと神社がある。神社は大晦日の夜にはとても混む。

「わたしはあなたのお家にも遊びに行ったことがあるのよ」

と、ママさんが言った。そう言われてみると、その模様をおぼえている気がした。複数の男女が来た。私はその人たちを驚かせたくて、テーブルの下に、ブロックで作ったロボを隠した。ブロックは木でできている。自然志向の父母がプレゼントしそうな代物だ。自然志向というのは、全然ウソなのだが。それで、その人たちはやってきて、私の自作ロボに驚き、そのうちにひとりの女性がトイレに行き、私はそれを覗き見した。それがママさんだったのではないか。

ママさんとその夫は、私の父と仲良しだと証明したいのか、途中から私を家まで送ると言い出した。私は最後までお店に残らされ、ビールを飲んだ。そのうちに焼酎にかえた。最初連れてきた友達はとっくに帰った。
「なにか歌え」
と言うので、ブランキージェットシティの、「悪い人たち」を歌った。私は当時はブランキーばかり歌っていたのである。途中でうまく歌えない箇所があったが、酔っていたから気にならなかった。歌い終わると、
「うまいね」
と褒めてくれた。「悪い人たち」じゃなかった気もする。

それで、本当に家まで送ってくれた。ママさんの夫は、ライトエースに乗っていた。私の家は、家の前の道がとても狭いので、曲がり角の電灯のところで下ろしてくれた。私は(本当に家を知ってるんだな)と思った。

帰りの車の中で、ママさんが、
「最近お父さんの部下の人が来て、お父さんのことを悪く言ってたよ。「瀬戸さんは、昔と変わっちゃった」て。お父さんはどうしちゃったの?」
と、言ってきた。私は曖昧な返事をして、車を降りた。運転してくれた夫にお礼を言った。夫は
「あいよー。また来いよ」
と言ってくれた。車は闇の中へ消えた。闇の手前に左官屋があり、そこの末っ子は私の三歳下だった。リビングにとても大きな水槽がある。

私はその店にまた行くつもりだった。しかし、それ以来二度と行くことはなかった。父にも話さなかった。