意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

在庫処分

書こうと思いつつも、書けずに終わったものを、ここに列記してしまおうと思う。私は後から思いついたことを書くスタイルなので、機を逃してしまうと、記憶の底に沈んでしまい、まず書くことができなくなる。以前のように1日2度3度更新すれば書けるのかもしれないが、一回程度では追いつかない。書かないのは、古い記憶だからという理由ばかりでもないだろうが。放っておけばそのうち忘れるのだろうと思い、放置するが、なかなか忘れないので、在庫処分として以下に並べる。

左利きのハサミ、女性用鏡

弓岡の部署に、50代の元営業のJ氏がやってきた。彼は左利きであり、
「世の中のすべての工業デザインは右利きのためになされており、左利きはいつも窮屈な思いをしている」
と言った。苦々しい顔の、おでこの皺が深かった。右利き用のハサミでは、全く切れないのだ。「工業デザイン」の部分はもっと違う言い方をした気がする。そういえばJの営業時代、彼の机をのぞき込むと、マウスが左側に置かれていて、
「ははーん、Jさんは左利きなんだな」
と、弓岡は得意げに思った。マウス自体は左利き用ではなかったが、ボタンの左右は入れ替えられていたので、急用でそのPCを立ち上げると、みんな苛々した。Jの机は不在時もきちんと整頓されていて、ペンも短い順、色順にきっちりとペン置きに並べられている。弓岡はJの性格が几帳面であることを見抜いた。

弓岡の最初の職場の上司が、ちょうどこんな感じの人で、あるとき弓岡が電卓を借りたまま、いつまでも鞄にしまい込んでいると、
「弓岡くん、電卓は?」
と注意された。電卓は携帯用の大変小さいもので、こんな小さなものの所在を気にするなんて、この人とはやりづらいな、と弓岡は思った。

女性用鏡については、手塚治虫の「火の鳥、鳳凰編」の我王が貴族を殺して宝物を強奪してくると、その中に鏡があったので、我王は大変醜い顔をしているので、鏡が嫌いなので女(名前わすれた)にあげた。女は奴隷のような人質のような、そんな立場だった。すると、どういうわけか、鏡に女の顔が映らず、我王が不審がると女は大笑いし、
「お前は田舎ものだから知らないだろうけど、鏡には男用、女用があって、きっとこれは男用だよ」
と教えるのである。もちろんそれは、女がとっさについた嘘であった。なぜ映らなかったかについては、ネタバレになるから言わない。

左利き用ハサミ、と耳にしたときに、ふとこの女用鏡が頭に浮かんだ。しかし、実際登場したのは男用だった。

時計で見る田舎と都会の判別法

毎朝の通勤で前を通る理髪店には、看板の上に時計が掲げられている。弓岡の車の時計は6分進んでいるのだが、理髪店の時計も同じだけ進んでいて、弓岡はその偶然に気を良くし、すっかりこの時計が気に入ってしまった。しかしここで髪を切ることはないだろう。弓岡は、顔の神経が細やかで、顔剃りの際、顎と首の後ろでくすぐったくて仕方がなくなり、時には笑ってしまうのである。子供の時分はまだ良かったが、大人になっても笑い出したら、
「我慢して」
と注意され、それがあまりに恥ずかしかったので、以来弓岡は、美容院に鞍替えした。顔剃りで注意された床屋は、今は蕎麦屋になっている。同じ人がやっているのかは知らないが、蕎麦湯がシェービングクリームに見えそうなので、一度と食べに行ったことはない。そこは割と近所で、そばにはサッシ屋があり、そこの倅と弓岡は同級生だった。サッシ屋の倅は大変な乱暴者で、彼の部屋は離れになっているので、離れで育てられたら子供は乱暴者になる、と弓岡は勝手に思い込んだ。離れの冷房は業務用で、夏にそこへ遊びに行くと寒いくらいだった。

都会と田舎の判別法、については、田舎の時計はたいていずれているか止まっているので、あなたの住んでいる地域の時計が正確な時刻を指しているなら、そこは都会である。

平井部長

在庫処分として用意した話は3つあったが、ひとつは途中で忘れてしまった。仕方がないので、「課長島耕作」に出てくる平井部長の話をする。

平井部長は最初島耕作のライバルとして登場したが、平井は仕事一筋の人間で、初見のゴルフコンペで、わざと自分のアベレージを低く申告したり、同じグループで回っていた、愚鈍そうな部下に、ルール違反についてねちねち絡んだりしていた。しかし、それは仕事をスムーズに進めるための彼の作戦であり、島耕作はすっかり感心するのだった。

一方平井は家庭を省みなかったために、妻は不倫をし、二人の子供も、姉はグレて妊娠、弟は引きこもりとなっていた。さらに最悪なことに平井の妻の不倫相手はヤクザであり、ヤクザは女の配偶者が初芝電産の部長だと知ると、平井をゆすりにかかり、初芝の施設に、右翼の街宣車を横付けしたりするのであった。一度はヤクザの脅しに屈して、会社から金を借りる平井であったが、島が、
「俺も今は離婚して独り身なんすよ」
「ほんとっすか? 内緒にするなんて水くさいっすよ、島さん!」
(以上、明け方のデニーズ内での会話)

などと助言し、ヤクザには空の鞄を渡し、
「あの女は私の妻ではありません。離婚しましたから」
と立ち回る。すっかりコケにされたヤクザがそのまま引き下がるわけもなく、ヤクザたちは腹いせに、初芝本社の玄関に、かなり大きく引き伸ばした、平井の元配偶者のヌード写真(荒縄で縛られている)を、特殊な接着剤で、貼り付けてしまう。その横には、
「私は初芝電産AV事業部長 平井の妻でございます」
の文字が!

デニーズで朝まで酒を飲んでいた島と平井は、そのまま朝早く出社し、誰よりも早くこの事態に気づいた。しかし、写真は簡単には剥がれない。そこで島がとった手段は、まずは奥さんの陰部をマジックで塗りつぶすことであった。そのあと中沢部長がスクレイパーを手にやってきて、剥がすのを手伝ってくれ、
「これが終わったら、みんなでビールでも飲みに行かないか」
と爽やかな笑顔を振りまき、(就業時間中だぞ?)島耕作は大変感心する。この事態に、平井の仲人もつとめたなんとか副社長はすっかりお冠で、平井は派閥からも追い出されてしまう。しょげている平井に島は、
「よかったら徒党をくまないか?」
と持ちかけるのである。