意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

はさみ/インターステラー

これはもう一昨日の話になるが、インターステラーがレンタル開始になっていると知ったので、借りてきて見た。帰り際にコンビニでチーズあられを買って、部屋のカーテンを閉め、若干映画館ぽく部屋の中を演出した。家族は誰も家にいなかった。私はいた。今は会社帰りにこれを書いているので、家のカーテンの柄が思い出せない。実家の柄は思い出せる。私が選んだからだ。弟の部屋のも思い出せる。私が最初選んだ柄が、弟の部屋の柄になったからだ。青空に雲が浮かんでいるデザインだ。弟はそのときまだ小学2年だったので、壁紙までは選ばせてもらえなかった。私は中二だったので、選んだ。

私がカーテンの柄を選んだ部屋に、それから半年くらいして、友達を招待した。5人くらいが泊まりにきた。母がカレーを作ってくれ、それを部屋でふるまった。うまいうまいとみんな言ってくれた。それで、やがて夜中になって寝た。ひとりが、
「俺ここで大丈夫だから」
と言い、私の勉強机の下に潜り込んで、体育座りの格好で寝た。彼は建設会社の社長の息子だった。社長の息子だから、たまにはそういう寝方をしてみたくなるのかもしれない。彼は直毛で、ハリネズミのような髪型をしている。日本語が変だ。ハリネズミの体、毛、のような、髪型をしている。翌日になって電車に乗ってボーリング場に行き、ボーリングをしたが、彼はとくに体が痛いとか言わなかった。私は白いセーターを着て出かけた。3月だった。レーンに移動したところで、部屋のエアコンを切り忘れたことを思い出し、家に電話をした。母が出た。
「切っといた」
と母が言った。私はおそらく、私たちが出かけたあとに、母が部屋を覗くだろうと思っていたが、私の家は、比較的プライバシーとかそういうのが発達していたから、覗かない可能性もあった。電話、と文字にしてしまうと記憶の中まで携帯電話でかけたような気がしてしまうが、当時はまだ携帯などなかったから、私は席を外して、公衆電話からかけたのだ。電話機の脇には、ジュークボックスがあった。3ゲームくらいやって、私たちは帰った。

ハサミについては、それは今朝の話で、私は朝会社に来たときからすごくムカついていて、それから、ハサミが所定の位置にないから尚更イライラした。誰が持ち去ったのかだいたい見当がつく。私は正確に言えば、ハサミがないことにイラついたのではなく、持ち去った(と勝手に思っている)人が嫌いだからイラついたのである。憎しみは、行為ではなく人物に向かう。仲のいい人だったら
「ハサミ持ってません?」
とか軽口を叩けるが、仲が良くないから、フランクに尋ねたつもりでも、犯人探しみたいになってしまうから訊けない。あまりにムカついたから、備品の箱から、新しいのを出してやろうかと思った。そうすれば、彼のハサミは行きどころがなくなって、困るだろう。
「弓岡くん、勝手に出さないでよ」
とか、当の本人に注意されれば、彼の小物ぶりが強調されて尚愉快だ。

しかし私は大人なので、別のハサミを使って事をしのいだ。私の職場は至るところにハサミがあるのである。明日は出すかもしれない。