意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

血相を変えて

火曜日と金曜日にやってくる移動販売のトラックがあって、そこでお菓子を買うようシキミに指示された。シキミは学校に行ってるから、自分では買えないのだ。幼稚園のころは買えた。買えた、というか隣に住むおじいさんがいつも買ってくれた。それですっかり味をしめたシキミは小学生に上がるが、それでも一年生までは、早く帰れる日もあるからそういうときは買えた。しかしおばあちゃん(私の義母)がいると、買ってもらえなかった。自分の金でもダメらしい。ご近所の金なら尚更である。そこでシキミは私に頼む作戦にでた。今は二年生になって、自分で買うことはほぼ不可能になった。

二時にくる、という話だったので二時までに部屋の掃除をして小説の更新準備をして、それから暑いなー、喫茶店でも行ってアイスコーヒーでも飲みたいなーと思いながらカップ焼きそばを食べ、それから本屋にでも行く時間があるかと思ったらそうでもないから、本でも読みながらトラックを待った。本屋に行かなくても本はあった。二時になった。来ない。私は暑い中外に突っ立っているのも馬鹿らしいから、それに近所の人に
「今日休みなんか? 平日休み?」
などと質問されるのが鬱陶しいから、室内で耳を澄ましていた。しかし音は聞こえない。やがて15分くらい経ったので、今日はトラックが休みか、じゃなきゃシキミが今日にくると勝手に思いこんでいるだけ、と私は決めつけ、本屋に行くことにした。私は本を探している。だいたいその移動販売で購入するのは前述のおじいさんだけであり、だからおじいさんが呼んだときにしか来ないのかもしれない。だから本屋に行った。

帰ってくると三時前なので、そのままシキミが友達と分かれるところまで迎えに行こうとすると、そのときにトラックはやってきた。その前のに老人ホームに行ったら予想外に人が出てきて時間を取られてしまったらしい。運転手は私の顔を見ると、
「お姉ちゃんはお父さんにそっくりなんだね」
と顔をほころばせた。やさしそうなおじさんだが、鼻毛が飛び出ている。鼻毛は正面から見るだけでなく、横からもチェックしないと丸見えになるから注意が必要である。その前に、シキミにはナミミという姉がいて、シキミには妹はいないから、「お姉ちゃん」なんて呼ばれて私は一瞬戸惑った。私のいないところで、「姉」と呼ばせているのだろうか。これは末っ子のコンプレックスなのだろうか。私は長男なのでわからない。

お菓子を二つほど買ってシキミを迎えに行き、家に帰るとシキミは
「お菓子を隠して」
と言ってきた。祖母(私の義母)に見つかったら小言を言われるから嫌なのだ。義母は私には小言は言わないだろうが、おそらく笑われるので、私もそういうのは不愉快なので、お菓子は預かることにした。それで、私も似たようなことをしたことを思い出した。

それは私が小学校中学年くらいの話で、私は地区のバスに乗って、隣町のお祭りに行った。隣町は川の向こうにある、比較的大きな都市だ。子供たちと、その親も同伴した。出店の中を歩くと、私は早い段階で、オモチャ屋の屋台で当時流行っていた、聖闘士星矢のゴールドクロスの天秤座のクロスが売っていて、私のテンションが一気に跳ね上がった。天秤座のクロスは武器がたくさんあって、私自身は乙女座であったが、天秤座が喉から手が出るほど欲しく、しかし地元のオモチャ屋に行っても全然売ってなくて、半ば諦めていたところだった。もしここで素通りしたら、絶対手に入れることはできない。そう思った私は血相を変えて母に買ってくれるよう頼んだ。まさかお祭りで、焼きそばとかたこ焼きでなく、玩具をせがまれるとは母も予想はしてないだろうし、しかも決して安くはないものだから、私は、
「悪いな」
と思っていたが、それどころではないから、必死に頼んだ。しかし周りには友達もいたから小声で頼んだ。しかし周囲は屋台だの神輿だのうるさいから、それほど小声というわけでもなかった。そうしたら母は買ってくれた。母も祭だったから少しは開放的な気持ちになっていたのかもしれない。

私は天にも昇る気持ちだったが、完全に羽目を外すわけにはいかなかった。先ほど「友達にきかれないように」と書いたが、この友達というのが、サッカー少年団だの野球少年団だの、そういう体育会系のやつらばかりだったので、万が一私が玩具を手にしているところを見られたら、絶対に馬鹿にされると思ったのである。だから、私は商品を受け取るとそれを素早く母に手渡し、母のシャーシャーする薄手の生地の袋の奥深くに隠してもらった。それは買い物袋である。普通なら、無理を言って買ってもらったときなどは、せめて商品の持ち運びの苦役はこちらが引き受けて罪の意識を軽くするのだが、今回はそういうわけにもいかずに歯がゆかった。その後も友達と祭の雰囲気を満喫している風を装ったが、実際は気が気でなく、途中で口にした焼きそばも、輪ゴムを食べているのとなんら変わらない食感だった。もちろん家に帰ってからが私の祭の本番だったわけだが。


※小説「余生」第17話を公開しました。
余生(17) - 余生