意味をあたえる

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面接

昨日、「採用面接で「映画を観たら感動して鳥肌が立った」と言ったら「鳥肌は寒さとか恐怖に対する生理現象なのでおかしいと言われ、言い返したら不採用になった」という記事を読んだ。私の要約が下手くそなので、これだけ読むと、感動で鳥肌立つの人はおかしい、という主旨になりそうだが、言い方としておかしい、ということだった。その証拠として、私は、
(じゃあ、実際感動して鳥肌が立ったら、なんと言えばいいのだろう?)
と思い、そうコメントも残した。すると、それに返事をくださった方がいて、何回かやり取りをしたら、
「結局この面接自体作り話ではないか」
という結論になった。私は、主人公のお父さんが脳梗塞で倒れて、というのが、たとえ事実だとしても、ちょっと居心地が悪くて嫌だった。昌平さんは、
「「今も立ってます」と腕を見せてくるのも嘘臭い」
と言い、私は同意した。私は女のひとのスーツは実際にわからないが、スーツを腕まくりするのはなかなか骨が折れるし、その下にはブラウスとかYシャツを着ているわけだし、余程練習をしたのならともかく、話の流れで、ばっと腕をまくるのはちょっと難しいと思う。スーツを着ていたのは女性でした。しかし、面接官は「もう結構です」と言っているから、それはもしかしたら無理に袖をまくろうとして、ボタンが弾け飛び、下手をしたら痴漢をしようとしてると思われかねないという、危機感、自分の名誉を守るためにとっさに出た言葉だったのかもしれない。そうするとなんだかリアリティが出てきた。

第二の問題として、彼女は自信満々に、「今も鳥肌立ってます」というが、見もしないのに断言できるのかというのがある。私も感覚で、
「あ、今鳥肌立ったわ」
というのはわかるが、やはり実際に目にするまで本当に立ったかは判断できない。友達相手なら、「やっぱ立ってなかったわ」と軽く言えるが、面接の場で腕を出してから、やっぱり立っていなかった、というのはリスクが高すぎるのではないか。彼女は無鉄砲なところがあるのかもしれない。あるいは自信家過ぎる。そういうのが彼女の評価を下げた。

それで、私は私の面接のときのことを思い出したが、最初に勤めた職場はいわゆる圧迫面接で、終始怒られている調子で、怒っているのは50代とか60代の男ばかりが5人、怒られる側は3人だ。もう10年以上も前の話で、怒った人の中にはこの世にいない人もいる。私は当時はまだ若かったし、なにしろ社会人経験もなかったから、床のリノリウムが蛍光灯を反射する様を見て、めまいを起こした。しかし、高校受験のときに先生に
「絶対に下は見てはいけない。面接官の顔か、さもなくばネクタイを見るように」
と、注意されていたから、相手の顔は見るようにした。どれもこれもしわくちゃで、ハゲもあり白髪もありの、初老博覧会であった。そういえば高校受験のときには、面接練習といのがあって、私は数学の江森先生の担当だったが、江森先生はとても太っていて、毎日タクシーで通勤している。他の先生はみんな車なのに、太りすぎて車の運転ができないのか。とにかく江森先生に、突然、
「あなたの家から、最寄りの高校はどこですか?」
と尋ねられ、最寄りはT高校だったが、私のS高校の志望だった。思い出した。私は最初にS高校の志望動機を訊かれて、
「交通の便も良く」
なんて言ったからそんなことを訊かれたのだ。江森先生は、
「あなたの最寄りがT高校なら、なぜT高校に行かないのですか?」
と訊かれ、私は話の流れの不穏さを感じながら、それでも面接ははきはきと受け答えしろと言われたので、
「それは私がバカだからです」
と無邪気に答えた。地元のT高は進学校で、私の偏差値では足りなかったのである。すると江森先生は、口元に笑みを浮かべながら、
「つまりS高校は、バカの行く高校なんですね?」
と言ってきた。私はすっかり答えに窮し、両手を股の間に挟み込んで猫背の、しぼんていく体勢なっていた。
「もう、結構です」

私は、恥をかかされたと思い、また面接としても完全にぶち壊しだったので、その翌日、担任に再度面接練習をしてほしいと頼み、できれば担当は江森先生にしてほしいと頼みでた。すると担任は、
「江森先生からは、弓岡の面接はまったく問題がなく、評価としては「優」と言われている。江森先生も忙しいし、他にもっと駄目な人もいるから我慢しなさい」
と言ってきたので、私はとても驚いた。

この話から考えると、つまり面接とはいかに相手を納得させる答えを用意するか、よりも、いかに相手に華を持たせるかのほうが重要、ということである。