意味をあたえる

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業務の効率化は自分の首を絞めるだけ

少し前に会社の偉い人がやってきて私たちの仕事ぶりを見に来ていて、その人はそこまで偉い人ではない、という風情でやってきたので、こちらも夕涼みするような具合でいつも通りやっていた。それで率直な意見を聞かせてくださいね的に、色々やっていることに口出しをしてきてあれやこれや話していて、私が
「ここの部分はやっぱり同じことの繰り返しで飽きるから、ローテーションさせてます」
と言ったら
「飽きちゃ駄目だろ」
と注意された。私はどうして駄目なのか、今思い返してもわからないし、極めて合理的判断だと思っている。だから偉い人は「飽きる」というネガティブ言葉じたいが気に入らなかったにすぎないと、判断した。

その人は数日いて、どうやら仕事の無駄を省けばそれが面白いし楽ができて会社も嬉しくてウィンウィンですねという考え方だというのが、だんだんと私はわかってきた。本気でそう思っているのか、そう洗脳しようとしているのかはわからないが、私には全く同意できない考え方だった。効率化という言葉、考えがあって私は20代のころは、確かに1時間かかる作業がやり方を変えたら5分で終えられるようになると嬉しくて、そういうことにハマっていて、ついにどうやら三人の事務所だったけど二人でやれるなあ、というところまで来たが、だからなんなんだ、という気持ちになってそれ以来「効率すなわち善」とは思えなくなった。またその頃別部署の先輩と飲んでいたら、なんだかかなり厄介な仕事をしたら上司に褒められたという話をして、
「褒められなくたっていいんだよ、褒めるんなら金をくれってんだよ」
と愚痴っていて、この人は純粋な人だなあと思った。つまりバカである。

業務を効率化することは決して間違っていないが、誰に対しての効率なのかきちんと見極める必要がある。会社が言う効率化は、会社が嬉しい効率化であって、私たちが嬉しいとは限らない、むしろ嬉しくない。例えば1時間かかる作業が30分で済むようになったときに、30分早く帰れるとはならない。15分でも終業が早くなればそれこそ「ウィンウィン」だろうが、そういう話は聞いたことがない。サラリーマンは時間給で時間に対してお金が払われるからである。

だとしたら私たちが考える「効率化」とはいかに時間当たりの労働力の消費をおさえるか、である。単純にいえば、疲れないようにする、考えないようにする、などである。それってサボリだよね、となるけれど、確かにサボリかもしれないが、これは立派な経済的行為である。規則を違反しなければ何も悪いことはない。

以前課長島耕作で、平井室長という人の奥さんがヤクザの愛人になってしまって、ヤクザには最初から愛情などなくやがて会社にゆすりをかけてきて、最終的に奥さんのフルヌードを会社の玄関に貼り出されてしまってその接着剤がかなり強力で剥がすのに手こずった、という話があった。奥さんは陰部も丸見えで、島がまずやったことは、その陰部をマジックで消すことだった。そのとき島耕作が中沢部長に相談すると、それはヌードの前段階の話だが、
「会社は家族的だが家族じゃない」
と島にアドバイスする。つまり情に流されて深入りするなよという意味である。

このエピソードが前段落とどう関係するのか私にもよくわからないが、私は島耕作のこのエピソードが好きで、確か前にもどこかで書いた。それで、これはどこで読んだか忘れたが、80年代の経営者だかその類の専門家が、これからは会社は家族的なものでなくなるので、社員の人もひとりひとり個人事業主のつもりでやってください、というようなことを言っていて、たぶんそれは保坂和志で読んだ。私は昨日図書館で保坂和志の「考える練習」を借りて再読し、そういう影響もあってここまで書いた。

だからとにかく話はぜんぶ繋がっていて、つながるとはどういうことかと言えば、私の欲望でつながった、ということで、私はここまで書いて結構満足した。

だから話を戻すと、私が仕事は手を抜けと主張すると、そんなことしたら会社自体の売上が下がって結果的に自分の首を絞める、という意見を持つ人もいそうだが、私は別にいいじゃん、と思う。潰れたらまた次を探せばいいだけである。会社の傾くリスクと、次を探すリスクを天秤にかけて、次のほうが高いと判断するならば、フルスロットルで仕事をしたって構わないが、それは多くの場合そう思わせられているだけではないか。自分の中の天秤は、本当に公平に傾いているのか。例えば情とかそこに入ったらかなり怪しい。例えば私たちは有給をたった1日とるだけであっても、他の人に迷惑をかけちゃうからとか言って、自分から休みを取り下げちゃうこともある。そんな感情まみれの毎日で、果たして冷静な判断ができるのか。だから私は結構情が深い人間なので、会社とか組織に対しては、かなり冷たく接しようと心がけている。

あと集団で仕事していると、中には組織側にどっぷり浸かってしまっている人も大勢いるので、そういう人の告げ口だとか足の引っ張りにもじゅうぶん注意したい。