意味をあたえる

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ドアと半ドアのあいだ

さっきナミミが学校まで送って欲しいというので、私はスペアキーを台所の引き出しがら取り出して、それで車のエンジンをかけた。スペアキーには、私が子供の頃にもらって捨てるに捨てられなかったお土産のキーホルダーがぜんぶ付けられていて、無駄に重い。沖縄の「めんそ~れ」とか青森の形したやつとか。日光江戸村の首振り忍者は早々に胴体が吹っ飛んだ。一体誰が私にこれらを与えたのか。

例えばそれは隣の家の奥さんからもらった。隣の家には立派な門があって、普段から私はそこによじ登り、飛び降りて遊んだが、あるとき傘を開いて降りればパラシュートみたいになると思い、それを試してみたがならなかった。しかも、そこんちの傘の骨を折るという失態までおかした。その前に奥さんに
「傘折れちゃうから、やめて」
と注意されていたのにもかかわらず、である。私はパラシュートはゆっくり降りるから、折れるわけないと思っていたのだ。傘はバレないように傘立てに戻したが、バレただろう。母は傘代を請求されただろうか。悪い人ではないが、豚によく似た奥さんであった。この前私が実家で車に米を積んでいたら、黒色のやんちゃそうな軽自動車に派手にクラクションを鳴らされ、私は頭を下げて車をどかしたら、隣家の庭に入っていき、乗っていたのは長男の嫁であったので腹が立った。傘のことをまだ根に持っているのだろうか。門柱はあの頃のままだったが、嫁はまさか私がそこを飛び降りて遊んだとか、そんなことは夢にも思わないだろう。下手したら門があることすら気づいていないのかもしれない。私の家は父の思想の影響で、家の回りはなんの囲いもなかった。

ナミミがやってきて後ろのドアーを閉めると、半ドアだったので、
「半ドアだよ」
と注意しようとすると、その前に自分で気づいて閉め直した。半ドアの対義語はなんだろうか、と考えた。全ドアだろうか。昔「はんにゃ」というお笑いコンビがいて、誰かが
「はんにゃってはんにゃとあと一人誰だっけ?」
と訊いてきたから
「ぜんにゃ」
と答えたことを思い出した。半ドアは私が子供の頃からあって、私も母によく注意された。これだけ技術が進歩したのに、半ドアが解消されないのはなんでだろう。それと、半ドアの対義語が無いのなんでだろう。

ぼんやりとそんなことを考えていたら、中学の前を通り過ぎてしまい、正確に言えば中学へ向かう路地を曲がり損ねてしまい、遠回りとなった。ナミミはそのことをなじりたかったが、たかが1分程度のロスで父を不機嫌にさせ、
「じゃあてめえで行けよ」
などと言われては明日以降頼みづらいから、最初の
「通り過ぎたよ」
以降は何事もないかのように黙っていた。そういう損得勘定、損得感情? に意識が向くことに、私はナミミの成長をかんじた。受験勉強の成果が出てきたのかもしれない。