意味をあたえる

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芸能人

何日か前の記事で芸能人について書いたが、そのとき五反田くんのことを思い出した。五反田くんというのは、村上春樹の「ダンスダンスダンス」という小説に出てくる芸能人だ。あれを読んで私は芸能人とはこういうものなのかー、と思ったわけでもなかったが、五反田くんはどことなく私の中のイメージでは郷ひろみであった。五反田くんはマセラティに乗って、奥さんとは別居中だが、奥さんとの性行為が楽しいし、向こうも楽しんでいると主人公に漏らした。なぜなら主人公と五反田くんは高校時代の友人同士だったからである。中学だったかもしれない。主人公は、五反田くんの記憶として優雅にガスバーナーに火をつけて、同時に女生徒たちのハートに火をつけた。「ハートに火をつけた」は、私が今思いついた創作です。そこのぶぶんだけは、私の中で福山雅治になる。私もだいぶテレビにやられている。とにかくそういうややこしところが芸能人っぽいし、村上春樹もそういうところに「芸能人」を見いだしたのだろう。「そういうところ」とは、配偶者と別居状態でありながらこそこそとラブホテルで会って性行為を楽しむぶぶんだ。

物語の後半で、五反田くんのマセラティと、主人公の日産ブルーバードを替えっこするシーンがある。調子こいた主人公はその足で中学生の女友達のところへ行き、ドライブに誘う。中学生の名前はユキという。お母さんの名前はアメで、父の名は牧村拓(まきむらひらく)という。ユキはあやしげにマセラティを眺めるが、その頃には主人公にだいぶ心をひらいていたから、ほいほいと乗ってしまう。海岸通りをぶっ飛ばしていると、突然ユキが車を停めろと主人公に命令し、何かと思うと、車を勢いよく降りて、その場にゲーゲー吐き出した。実はユキには超能力があって、そのマセラティにはあるい、わ、く、があった......。これ以降興味がある人は買って読んでください。私が先を書かなかったのは、ネタバレとかではなく、むしろわかりやすいことであるから、読んだ人が
「こうかな?」
と思ったらだいたいそうである。保坂和志が、「意外なこと、とは想定内のことを指す」と言っていました。

そういうのを抜きにして、「ダンスダンスダンス」は刑事が主人公を取り調べするシーンも面白かったし、ハワイで白骨に遭遇するシーンも意味不明で良かった。片腕の詩人、ディック・ノースが車にはねられるシーンも良い。村上春樹自身はたしか、「そうだ村上さんに相談しよう」の中で
「「ダンスダンスダンス」は書き込みが足りなかった。しかしそのぶん熱のようなものが残っている」
と言っていたから、混沌とした感じが好きかもしれない。