意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

一泊旅行

昨日今日で旅行をしている。昨日は曇り、今日は晴れた。宿に救急車が来た。私は四階から救急車を見下ろしていた。最初は駐車場に停められた、それ以外の車が赤く点滅しはじめ、なんだろうと思い窓際に行くと、地域と二桁のナンバーが大きく書かれた白い天井が見え、それが救急車だった。ちょうど担架が乗せられるところであり、そのあと浴衣を着た人が乗り込んだ。あれでは寒いのではないか、と私は思った。そこは山の上のほうであり、周りには霧が立ちこめていた。霧は雲のようだった。霧を知らないシカ菜には、
「霧=雲」
と脳内に刻み込まれた。

そこは妻の友人が結婚式を挙げた地域であり、妻の友人だが私の友人でもあるから、そこまでアウェイな感じはしなかった。シカ菜はまだ1歳そこらで、いつまでもがちゃがちゃしたところにいさせても仕方ないと思い、私は途中で会場を後にし、そこは宿も兼ねていたから、部屋で寝かしつけたらまた来るよ、と妻に言って私は一度部屋に引っ込んだが、私はそのまま朝まで寝た。

二日目になって、朝食を
「不味い、不味い」
と言いながら私たちは宿をあとにし、そこから子供が楽しむような体験型の施設に行った。そこで石を掘るのである。10時オープンで10時前に着くとすでに店の外まで人が並んでいた。順番がくるまで待っていると、メガネをかけた小太りの店員が私たちの座る場所が違う、と注意した。妻などはとにかく普段から記念撮影ばかりの撮影マニアであり、そのときも看板の前でシカ菜とミユミを並ばせていたが、注意を受けて気まずそうにした。この店員が、やがて私たちの番が来て説明を始めたが、かなりのやり手らしく、とにかく注意事項にはじまり注意事項に終わるといった具合で、少しでも聞き漏らせば怒られるんじゃないかと思い、私は緊張した。順番にこだわるタイプだった。スコップの色を訊ねられたが、迷っていると、待ちきれない、という態度を示したので私はあわてて
「青」
にした。いざ本番が始まるとその人はどこかへ行って、若い人がそばにいたから私の緊張は解けた。若い人は契約社員だろうか。なんにせよ、店の野望というか、とにかく利益拡大のために一丸になる、みたいなのかそこかしこに見え、私はちょっと疲れた。

そういう空気のせいか、私と妻がベンチに座って石の重さを計っていると、隣で
「あんたのそういうところが駄目なんだよ」
と子供を叱責する女の声が聞こえた。言葉の内容から判断するに、それは子供のその場のヘマではなく、遡った過去から積み重なった、子供の人間性に関わるものに対する矯正を試みているようである。なにもこんなところで、と思うが、いつものことなのだろう、子供は涼しい顔をしている。母親が疲れるだけなのだ。しかし母は母でストレスの発散になっているのだろう。

子を持って、何度かハチャメチャに怒ったことがあるが、立場の弱い人に対して圧倒的な論理でぶちのめすのは気持ちがいい。その論理に多少のほころびがあっても、なにせ相手のほうが立場が弱いのだから、ホームラン級の策がなければ、まずこちらがひっくり返されることはないのである。しかしそれで何かが改善されることは全くない。むしろ回数を重ねるほど、相手は鈍感になるので、やるだけ無駄なのだ。しかし気持ちいいのは気持ちいいので、厳しい叱責は自分のために行うべきだ。