意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

テレビは面白いけれど

先日の「世界の果てまでイッテQ」という番組は山登り特集であったが、そのとき私は子供たちと私の実家に行って最近私の母が誰かに贈られたという“たこ焼き器“を使ってたこ焼きを作っていた。たこ焼きという名称から炊飯器とか洗濯機のようなものを思い浮かべるがそれは単に等間隔にヘコミのついた鉄板であった。第一次大戦たこつぼのようなものだった。そこで材料を流し込んで回転させたりするとやがて球体のたこ焼きがなできるが、私の子供たちは早々に飽きてホットケーキだの、タコフォンデュなどをめいめいにこしらえていた。タコフォンデュ、というのは厳密にいえばチーズフォンデュであり、タコフォンデュだと溶かしたタコのなかに肉や野菜を突っ込む行事になってしまうが、タコフォンデュといったほうがイメージは伝わると思いこの言い回しを採用した)

そうして上の子などは私の妹が録画した韓国のドラマを見ていたが、これが私にとっては退屈な内容であり、ようやく大団円を迎えたと思ったらいきなり「○年後ーー」みたいな展開になってうんざりした。それがやっと終わったと思って元のテレビ放送に戻ったらそこでやっていたのが冒頭の登山の番組だった。それはまだ山に登る前のシーンであり、演者と山登りのサポートの人たちが山小屋で「謎かけをやりましょう」ということになって、最初に年寄りの人がまあまあの謎かけを披露した。次に女の演者の人の番になって、最初の年寄りが話を振る役を蚊って出たのだがどうにも要領をえなくて変なタイミングで「その心は?」と声掛けしたりして、女の演者はすっかりへそを曲げてしまった。それが愉快ですよ、という演出であった。私も「愉快ですよ」なんて平気な風を装ったが、実際には声に出して笑った。たこ焼きは大方片づいていた。しかしこれは仕込みではないか? という疑いを持ってしまった。番組の方である。私はあることを思い出した。それは前の職場の顧問の人が昔放送されていた「ご長寿クイズ」という番組に出演したことがあって、それは男女複数の老人が早押しクイズに挑戦するという内容だったが、老人が素っ頓狂な回答をするのが面白みだった。しかしそれは実は編集の妙であり、実際は問題と回答を入れ替えてわざと素っ頓狂にしているだけで、老人たちは視聴者が思うほど馬鹿ではなかった。勝手に笑い物にされ、顧問は怒り心頭だったと当時の私の先輩が教えてくれた。それは私が直接聞いた話ではなく、私がそこに勤めていた頃は、もうだいぶ耄碌して何を喋っているのか半分以上聞き取れなかった。しかしみんなからは尊敬されていた。

そういう記憶があるから私はいわゆる素人と呼ばれる人たちが、プロ顔負けの面白いことを言うときはこれは何かあるぞと、それ以来疑いの目を向けるようになった。山の途中で女の演者が「もう足が動かない」と泣いていたが、この人こそプロなのだから涙を流すのなんて、朝飯前だと思った。もちろん人間はフィクションでも山はリアルだ。昔読んだ「コブラ」という漫画で、信じていない人には存在しない山の話があって、あるときそこに金塊を積んだ飛行機が墜落したので悪い人たちが集まって登山パーティーを組むのだが、「金がある」程度の信念では山の存在を信じられず、次々に脱落していく。最後はコブラだけが残り、残れた理由はパートナーがその墜落した飛行機に乗っていて、助けるという使命があったからだ。パートナーはアンドロイドだから飛行機が墜落したくらいでは死なない。しかし山を下るのは難しかった)私がみていたら番組の方はそんな生っちょろい山ではなく、山であるからお金のために偽の涙を流しても消えたりはしない。もちろんそれは私が人間を見くびっているからイカサマに見えるだけかもしれないが、私は嘘か本当か判明しないと心が落ち着かず、これなら映画でも見た方が余程楽だと思う。