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意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

気が気じゃない2

翌朝私が妻に子供の耳の下にできたできものについて話すと、妻はあまり関心がない反応だったので腹が立った。妻としては、それよりも隣の家が新しい犬を飼いだしたということに関心を奪われていた。数日前に見慣れない犬を見た。それはダックスフンドという犬種であった。それ以前にも犬は飼われていて、どんな犬だかはわからなかったがやはり足の短い犬であった。飼い主は坊主頭の一人暮らしの老人であった。いわゆる穏やかな風貌の老人ではなく、背筋はシャンとして体格はがっしりして車はクラウンを乗り、一癖ありそうな風であった。クラウンは白くてぴかぴかで、塀の一部を取り壊して作られた駐車スペースに縦列に停められていた。私の妻が幼い頃からそこに住んでいて、先に盛り土をして家を建て替えたので、日照を遮られる形となった義父は憤慨して自分の土地にも土を盛るのであった。ちょうど隣家は我が家の南に立っていた。私は土地の人間の家に生まれたから、こうした話は珍しかった。私の友達も後から越してきたのだが、隣の土地まで庭として買っておかなかったことを後悔していた。今はそこに家が建って、やはり日当たりは悪くなった。後悔したのは彼の父親だった。父親は日産のサニーに乗っていた。確かに玄関の日当たりが極めて悪い家で、冬などはとてもひんやりして寒かった。

隣家の犬はいつも放し飼いで、縄につながれているところは一度も見たことがなかった。そのためたまに私の家の敷地に来て勝手に小便をするらしく、そのことが妻と義母の怒りを買っていた。私は私の土地ではないからどうでもいいと思っていた。向こうは犬のやることだし、と思っているのかもしれない。極めて毛ヅヤはよく愛らしさのある犬だった。飼い主はたまに犬を車に乗せ、東北などに旅行に行く。期間や宿など決めず、犬と車中泊をするそうである。私は一度旅に出る直前の犬と飼い主に会ったことがあり、よろしく頼む的なことを言われた。私はどこかで心中するのかと思った。何週間かしたら帰ってきた。

数日前に犬がよそ見した自転車に轢かれそうになるのを見て、この犬がだいぶ年をとったんだと悟った。自転車は中学生が乗っていた。中学生はどういうわけか首を思い切り後ろに向けたわき見運転で、一体なにがそんなに気になったのか、もう少しで犬の長い胴体を踏んづけるところだった。メガネをかけた男子であった。私がいち早く気づき、
「あぶない、あぶない」
と何度も声をかけてようやく気づきすんでのところでハンドルを切って、中学生は
「すみません」
と小声で言った。私たちはこれから神社へ行くところだった。妻が御朱印集めをするためである。私は単なる付き添いで、できれば行きたくはなかったが、子供が「来い」というからついて行った。そのときはまだ出来物について知らされてなかった。もっと幼い甥もいたが、甥は放し飼いにはされなかったから自転車に轢かれそうにもならなかった。
「轢いちまえば良かったのに」
と後から妻が言った。私は少なくとも中学生が気の毒だからそういう風には思わなかった。それから数日たって、見慣れない若いダックスフンドが隣家の家の前の道を放し飼いにされているのを妻は見た。