意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

歯医者に思うこと

歯医者に行った。歩いて行けるところにある歯医者である。元は九州だか熱海だかに住んでいたと聞いた。近所だからそういう噂も流れるのである。私にはまったく興味がなかった。歩いて行けるところにあるというところのみ重要だった。歯医者に限らず近頃の病院はみんなバリアフリーになっていて、初めてのところなど、つい土足で入っていってしまいそうになる。実際入ったこともあり、注意された。ある程度大きな病院になると土足で入る建物であるから、その辺の判断が悩ましい。大きな病院は隠し扉のようなのがあって、その中が看護婦などの休憩室になっている。去年インフルエンザの予防接種を受けに行ったら、時間を指定されたのにびっくりするくらい待たされてやがて昼になり、壁の中から女の人の笑い声が聞こえて尚びっくりした。どこかから壁の中に入れるらしく、病院で働く人はそこでお昼をとるようだ。患者を待たせてお昼なんてけしからん! とは思わないが、うっかり誰かの悪口を言えば丸聞こえなので注意しなければならない。

話を歯医者に戻すが、件の歯医者にかかると義父がかならず
「あすこはどうだ?」
と訊いてくる。技量についての質問なのだが、検診だけだからどうもこうもないし、だけでなくとも素人の私には判断がつきかねる。義父は必ず
「あそこは愛想はいいんだけどなァ」
とつぶやく。愛想は確かに良い。ハキハキしゃべる。治療の際にはどこをどのように治療するのか展望を説明してくれ、私としては文句はない。私は20歳くらいまで、私はロクな歯医者にかかったことがなかった。すぐに歯磨き指導をしたがる医者とか、助手の女と私を挟んで私語ばかりする医者とか、そんなのばかりだった。そこは私語だけでなく治療もダラダラとして、結局一年くらい通うハメになった。私はバックレるのがイヤだったから言われるがままに通ったが、最後は「クリーニング」で引っ張るからじゃあいいやと思ってバックレた。

義父も同じような体験をしたのか知らないが、こうした体験が「腕の良い医師は愛想が悪い」という認識を彼に刷り込ませてしまったようだ。だから逆に愛想の良い医者は腕がイマイチと決めてかかり、私にもそれに同意してもらいたいようで、だから毎回「あすこはどうだ?」と訊いてくる。私は、義父のそういう欲求は見抜いているから「そうですね、腕の悪さを接客でカバーしているのでしょう」とでも言ってやればいいが、馬鹿みたいなので適当に話を合わせてすっといなくなってしまう。