意味をあたえる

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SIMを解約せねば(最終回)

さっきようやく手続きが済み、心のつかえが取れた。使っていない、別の機種の買い替えの際に割引になるからと強引に契約した回線だった。SIMのみである。二年後に解約してくれと念を押され、おそらく向こうは二年経つうちにそんなこと忘れるだろうからそうしてネギトロをこすげ取るみたいに毎月小銭を巻き上げてやろうという魂胆なのだ。向こうはもう翌日になったら、私たちのことなんて忘れるのだ。私はそれ以降何度かこの店にやってきたが、このSIMを解約させた男に一度も見かけたことがない。というか携帯ショップという場所は、行く度に違う面子が並んでいて不気味だ。よほどすぐ人がやめてしまうところなのか。と、カマトトぶってみたが私は昔代理店の元締めみたいなところに勤めたこともあるから、ああいうところがいかにヤクザかは知っている。ヤクザというか頭のおかしい人がたくさんいた。中国人もいた。背の高い女の中国人と、背の低くて顔色の悪い中国人が、現地の言葉で誰かの悪口を話していた。誰も言葉がわからないから、陰口にする必要がなかった。背の高いほうは、黄色い顔色だった。故郷に子供を残していると言っていた。私が辞める少し前に辞めた。顔色の悪いほうが、性格が数倍悪かった。

私は何年か前までは特に感じなかったが、ここ数年は携帯ショップに行く度に気が重くなり、今日対応した女のスタッフも終始上から目線であり、最後
「あざっす」
みたいな言われ方をされ、もうカチンとくる元気もなく、その後夕食を買いにスーパーへ出かけたが、もう寒くて仕方がないから、一味早くレンジでチンする年越しそばを買って食べた。私の今年はもう終わったのだ。そういえば私が更新通知を受け取っているブログのいくつかも「2016最後の記事です」とか、「今年もなんちゃら」みたいな記事がいくつも並んだが、前述の通り私は大晦日でもないのに年越しそばを食べるような男だからあまりぴんとこない。家族は初日の出が見たいと言い出し、日の出ならベランダでも屋根でもどこでもよじ登って見れば良いと思うが、海で見たいと言う。どこの海かと訊ねれば、海ならどこでもいいも言う。ちょっと意味がわからない。私の生家の私の部屋はカビ臭かったが家の一番東にあり、季節によって朝日が差し込み、ドアを開けるとオレンジ色の光が廊下まであふれ出て、それは差し込むと言うより、光の溜まりに家を丸ごと放り込まれたような様相だった。部屋の中にはピアノがあり、ピアノの脇には北斗の拳の火の用心のシールが貼ってあった。しかしそれは決して1月1日の朝の話ではなかった。

2016年も当ブログを読んでいただき、ありがとうございました。明日も更新します。