意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

やきとり屋

父がやきとり屋を下見したいと言うので付き合った。下見と言っても実際に飲み食いするのである。5時前についたが一般住宅をを改装した店の前には行列ができている。私はこの時点で店に入りたくなくなったが父がいるのでこらえた。飲み屋に並ぶのは初めてである。確かに開店前だが昔よく行った飲み屋は5時前についたら裏口から声をかけて無理やり開けさせたりした。私の地元ではなかったが職場の先輩の行きつけだった。チェーン店だったが店主は愛想がなく雰囲気があった。あとトイレがとてもきれいだった。


5時きっかりにドアが開いて暖簾がかけられ暖簾を持って出てきた男は白衣をきていて骨接ぎにでもやってきた気になった。白衣は料理人も着るがどうして整体士に見えたのか。私と父はいちばん後ろに並んでいて奥が開いていたからそこに座ろうとしたらそこは誰が座るのか決まっているらしく断られて隅のカウンターになった。狭いので二の腕が壁にくっつき壁は冷たかった。少し上にハイボールのポスターが貼られている。とにかく一見には冷たい店で私と父はアウェーの洗礼を受ける形となったがそれでも主に焼き鳥を焼いていた年寄りのほうは「焼くの遅くてすんませんね」と私たちを気遣った。私と父が始終苦笑いしているのが目に入ったのだろう。アウェーであっても一応地元なのである。カウンターは奥に行くほど馴染みが座るルールがあるようで末席の私たちは飲み物も焼き鳥も最後にやってきた。そういう現状に年寄りの店主のほうはいくらか危機感を持っているのかもしれないが息子のほうはそういう気配はない。この店は親子二代でやっていてあと息子の嫁がお新香を盛りつけたりしている。店主の妻は遅れてやってきて洗濯物でも畳んでいたのだろうかと私は思った。親子二代というのは私の勝手な想像でしかし父も息子も同じ用な禿げ方をしているから親子で間違いないだろう。息子のほうが特に私たちに冷たく父は予約が可能かどうか訊ねると面倒くさそうに応対した。先に帰った客の皿やコップを下げているところだったから鬱陶しかったのだ。私は客商売とは難しいなと思った。この息子がもっと若いのならまだ救いがあった。


私たちも親子であるが気の弱いサラリーマン親子でありお互いがどんな風に仕事をしているのかも知らない。父はここのところ耳が遠くなってきていてそれが若い社員の苦労につながっていなければ良いと思う。父はもう65だから私も60過ぎの人と仕事をしているがこの人がいてプラスだと思うことはまずない。父は父で私の義父の仕事のことばかり気にかけ私は義父のことなど普段ぜんぜん考えないが義父はもう70だ。それが炎天下で警備員をしている。愛想がよく年下の社長にいいように使われているのだ。それでも何もせずに家にいるよりかは幸せそうである。幸せかどうかは知らない。しかし2人とも私より元気そうである。