意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

2019-01-01から1年間の記事一覧

十字路(19)

それから4日後の授業の時、ミキちゃんに髪留めを渡した。こちらから何かをいう前に「行ったんだ、デート?」とはしゃぎ声を上げた。私は家族旅行と嘘をつこうと思っていたが、ばればれだし現にこうして見破られてしまったので、素直に認めることにした。「ど…

十字路(18)

最初から薄々わかっていたが、笠奈は熱心にメールや電話をする女ではなかった。兼山に気づかれないようにと、塾でも声を交わすことはない。だが、これまではミキちゃんのことなどを普通に会話していたのに、これではかえって訳ありっぽくて怪しくないだろう…

十字路(17)

3日後の夜中に笠奈から電話があり、私も君の事好きみたいと言われた。とりあえず布団を蹴飛ばしてベッドから降りた私は、電灯の紐を引っ張って明かりをつけ、その紐にしがみついたままかろうじて返事をした。笠奈はそんな私に構う事なく、とりあえず兼山さん…

十字路(16)

「出ようか」 そう切り出したのは笠奈の方で、その時はお互い無言のまま10分は過ぎていた。途中で笠奈がトイレに立ったので、もっと過ぎたのかもしれない。その間私の頭の中は、言うまでもないが兼山でいっぱいだった。笠奈に「(自分が付き合っているのは)…

十字路(15)

卒業シーズンだからというわけでもないだろうが、高校時代からの仲間の1人が就職することとなった。それじゃあお祝いでもしてやろうということになり、仲間5人で集まって飲み会を開くことになった。場所は笠奈とも何度か行ったことのある居酒屋だった。そう…

十字路(14)

3月から笠奈のアメリカへのホームステイが決まり、その間、ミキちゃんの授業を見ることになった。笠奈も受験生を受け持っていたが、その生徒は2月の末には第一志望に合格した。笠奈は、誰からも無責任な女と後ろ指をさされる事なく旅立って行った。もしその…

十字路(13)

笠奈はクリスマスは家族と過ごすらしい。結局クリスマスの話題になって「どこでデートするの?」と聞いてみると、その日は母親の仕事が遅くなるために、代わりに夕飯を作らなければならないとのことだった。でもそれは、クリスマスイブのことで、だったらク…

十字路(12)

ミキちゃんの「協力してあげるよ」はどの程度の効果をもたらすのかは不明だが、それに期待をかけるのは、いくらなんでも軽率だろう。何より、倫理的によろしくない気がする。いや、恋愛に倫理も何もないのだが、要するに情けなさすぎるだろ自分、て感じであ…

十字路(11)

前述のルール通り、今日は笠奈を迎えに行かなかったので、帰りは自転車で並走した。秋が深まって風が冷たくなり、パーカー1枚では肌寒い。昼間との寒暖差が大きく厄介な季節だ。「酔いも覚める」と2人で文句を言いながら向かい風に自転車を走らせた。暗闇の…

十字路(10)

それからは、笠奈と2人で飲みに行くのが恒例となった。頻度としては月に1、2回程度。初めのうちは、飲んだ後に、もしかしたらホテルに流れるみたいな事もあり得るかと、無駄にコンドームを財布に忍ばせたりしたが、当たり前だがそんなのは杞憂に終わり、私達…

十字路(9)

二学期になって、最初の授業の終わりに兼山に声をかけられ、ミキちゃんのことを受け持つことになった。数学と理科。「お前どちらかと言えば、理系だよな?」と、一応は疑問系の体裁で聞くが、完全に決めつけられていて、こちらの意見など全く聞く素振りもな…

十字路(8)

最初に根を上げたのは、二階堂だった。笠奈が「なんか二階堂ちゃん、気持ち悪いみたい」と後ろから報告してきた。葉山は「了解」と短く答えたが、何をする風でもなかった。こんな所でどうすればいいんだ、という感じだったが、しばらく行くとパーキングがあ…

十字路(7)

葉山の車は、私の車すぐそばにあった。駅前でなおかつ夜中でもタダで停められる駐車場なんて、限られている。シルバーのプリメーラ。聞いてもいないのに「親の車なんすよ」と言ってきた。本人の車だとしたら、私が憤慨するとでも思っているのだろうか。まあ…

十字路(6)

駅前のスーパーの駐車場に車を停め、そこから5分歩いた先にある白木屋で打ち合げは行われた。参加したのは大学生ばかりで、兼山や中年の講師たちの姿は見えない。全部で10人くらいいたが、一続きのテーブルは確保できなかったようで、席は二つに別れた。私は…

十字路(5)

夏期講習はお盆までには全日程が終わり、お盆明けの金曜日に講師たちで打ち上げをやることになった。どうやらそれは恒例の行事らしく、講師用掲示板の真ん中に、堂々と手書きのチラシが貼られていることからも、それが判断できた。タイトルは女の子っぽい文…

十字路(4)

連絡があったのは面接から三ヶ月ほど経ってからだった。着信の表示を見て、話の内容が予想できたが、実際出てみると「来週から来い」と唐突な上に、態度も横柄だった。声から判断するに、例の眼鏡の小太りのようだ。恐らく私がここで断っても代わりはいくら…

十字路(3)

n号線はさらなる拡張を続けた。私が高校になる頃には、いくつもの畑や森をつぶし、新たなルートを開拓した。道路の分岐点は立体交差が建てられ、片田舎の街が一気に近代化を果たしたような感じられた。以前のバイパス工事と同じ感じだったが、今度は誰も新…

十字路(2)

しかし、小学校6年の二学期になると、状況が変わった。姉弟は、別の土地へ引っ越してしまった。初めは弟とガンダムのプラモデルで組み立てている時に、彼の口から聞かされた。春休みで、それが終わると、私は6年に、弟は3年に進級する季節だった。そのうち、…

十字路(1)

これは国道n号線についての散文である。 国道n号線は、埼玉県をおよそ南北に縦断する道路で、南下すれば川越や大宮を抜け東京へ、北上すれば秩父の山を通って山梨だか長野へ抜ける。どこが源流でどこで終着になるかは知らない。調べればわかるのだろうが、…

タイムパラドクス孤児というタイトルにすれば良かった

昨日まで載せた「ワームホール」という小説はタイムパラドクス孤児というタイトルの方が良かった気がする 確か書いている当時も思っていた気がするがどうしてワームホールにしたのかは思い出せない 読み直してみるとなんとなく開かれた終わり方をしていて続…

ワームホール(5)

わたしはセックスなんてしたことないし、実はどういう行為なのかもうっすらとしか知らない。友達に経験した人はまだいなくて、隣のクラスの山本さんが、家庭教師の大学生とカーセックスをしたというのを聞いたくらいだ。山本さんと言われても、顔も知らない…

ワームホール(4)

わたしにタイムパラドクスについて教えてくれたのは、理科の溝川先生だった。先生は白衣と眼鏡の典型的な冴えない理系男で、授業もゆるく、一部の男子がガスバーナーで机に焦げ目をつけて遊んでいても熱心に注意しなかった。そのぱっとしない溝川先生も、授…

ワームホール(3)

わたしがタイムパラドクス孤児であることを教えられたのは、小学校の卒業式から2日経った後だった。お母さんとしては特にこの日に教えるとか決めていたわけではなく、なんとなく話の流れから打ち明ける形になったみたいだ。それまでわたしはいわゆる普通の母…

ワームホール(2)

およそ30年前、とある物理学者がワームホールについての論文を発表し、ある一定の条件を満たせば、地球上でもワームホールが発生することを予言した。”一定の条件”はそこまで容易に揃えられるものではなかったが、すぐに複数の研究機関が飛びつき、程なく人…

ワームホール(1)

わたしが発見されたのはお母さんのアパートで、その時お母さんは18歳で、アルバイトをしながら、美容師になるための専門学校へ通っていた。その日は日曜日で家にいて、お昼前に起きて、たまった洗濯物を洗濯機に突っ込んでから部屋に掃除機をかけ、それがひ…

今日は元気だった

咳もだいぶおさまって今日は年に数度の気分が前向きの日になった こういう日はネガティブなことを言っても自分自身がネガティブにはならないので積極的にそういうことを言った 例えば同僚にはいつものように無理して笑顔をつくらずに済んだみたいなことを言…

子供が熱を出しているのに母親が美容院に行くのはいかがなものか

標題のことで義妹夫婦が揉めている 私たち夫婦は自分らのことを棚上げして他人の夫婦についてあれこれ言うときはかなり冷静で私はいつも心中では滑稽な気がしてしまう ここに出てくる母親とは私の妻の妹で妹は美容院に行く間に姉に子供を預けようと思い姉も…

今日髭男ディズムというバンドを知った てっきりヤバいTシャツ屋さんみたいなのを想像したらぜんぜん違って拍子抜けした 2曲聞いたら嫌になった さまざまなバンドがいて中には合わないものも存在するがこれまで私はその基準が歌詞だと思っていたら声という要…

青年海外協力隊家庭科室ドブ川横沢(2)

ところで青年海外協力隊と書いて、ぴんと来るものがあり、それはかつてテレビドラマの中で同じ単語を聞いたことがあった。それは「天まで届け」というお昼の帯ドラマで、私が小学6年のころに放送されていたが、私はそのときは夏休み中だったので、そのドラマ…

青年海外協力隊家庭科室ドブ川横沢(1)

私が朝起きると、D氏からメールが届いていており、それは決してD氏が明け方に送ってきたメールというわけではなく、おそらく夜中に送ってきたものである。あるいは、日付が変わる前にすでに届いていたのかもしれない。私は、昨夜は23時くらいには、おそらく…