意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

とうもろこし

食卓にとうもろこしがあったので、食べた。薄々私の実家からもらってきたものであるような気がしながら食べていたら、やはりそうであった。金曜日に母から電話があって、とうもろこしの収穫が解禁になったから、と言われ、しかし私は土曜日は仕事なので、妻と娘が自分の都合で好きな時間にいつでもきても良いと言われ、その際には電話をくれと言って、母は電話を切った。
だから、私が家にとうもろこしがあって、まずそれを実家のとうもろこしであると思わないのはとても不自然であるし、なにかカッコつけているような印象を読んでいる人に与えてしまいそうだが、まず第一に、妻はとても忘れっぽい人なので、夜寝たらとうもろこしのことなどすっかり忘れてしまう可能性がある。そして私の母もドライな人なので、妻が忘れて電話をしなくても、母は勝手に都合が悪くなったと解釈して、自分から電話をしようとせずに、炬燵の脇にごろんと横になってNという推理作家の小説を読んでいるのだ(小説家をNと表記したのは、名前を忘れたからだ。カッコつけているわけではない)。(私の実家の人たちは、とても寒がりなので、まだ炬燵は出たままである。私も寒がりであるが、妻も子供も暑がりなので私は毎晩毛布をかぶって寝ている。)
私がとうもろこしを見て、それが実家のものではないと判断したのは、それが粒の並びが整っていて、さらに食べると甘かったからである。私が子供のころに食べたとうもろこしはもっと粒の並びが不規則で、下手をすれば何かの病気にでもかかったかのようなスカスカ具合であった。私は子供心にとても不恰好だなあと思っていたが、父はアマチュアの農家なので、気を遣って黙っていることにした。どんな味だったかは覚えていないが、ひたすら熱く、私たち兄弟に母はひとり1枚ずつタオルを渡してくれ、それに巻いてとうもろこしを食べた。私は野菜がとても嫌いで、とうもろこしは好きだったから野菜ではないと思っていたが、父が「野菜だよ」と教えてくれたので、私は食べながら、罪滅ぼしをしている気にもなった。
今日食べたとうもろこしは、とても粒の並びがきれいで、甘く、甘さが喉の奥に残ったので、私の罪はあまり消えてくれそうになかった。いつから父はこんなにとうもろこし作りがうまくなったのか。