彼らはバスで来ていて、関西弁を喋っていた。女の方が男を誘って今日は来ていた。彼らについて説明できるのは、実際書いてみるとこれくらいしかなく、書くまではもっと沢山書ける気がした。彼らは私よりも年下だったが、学生なのか社会人なのかはわからない。つまり、社会人ということである。学生なら学校とかサークルとか勉強の話が必ず出てくるからであり、彼らの話の内容がまるで思い出せないということは、彼らはおそらく別々の仕事の男女だから、共通の話題というものを持たないのだ。男Aが
「腹減った」
と言った。また、腹にたまるものがくいたい、とも言った。女Bは
「飯?」
と言った。そして列が解散となると、彼らはどこかに行ってしまった。再び会えるかはわからない。
ところで列の途中で、列の脇には木が植えられていて、その鉢、というか木を取り囲むフェンスが台形だったことを、私は列に並びながら発見した。そして常々考えているあることを思い出した。
それは会社の帰り道にいつも通りかかるアパートの駐車場のことで、その駐車場は道に向かって勾配がつけられていて、つまり道に比べて建物が高い位置に建てられているのをイメージしてもらえば伝わるだろうか? そしてその斜面上に駐車スペースの白いラインが引かれており、斜面がちょうど四角形の角があたり、角がこちらに向けてびよーんと伸びた形になっている。私はそれをそれを見るたびに、この四角形の内角の和は360度にならないと思い、大変落ち着かない気持ちになった。上空から見て2次元と決めつけてしまえば360度だろうが、私の通りかかる位置からはそうはいかないのである。ユークリッド幾何学の範疇を超えてしまっているのである。
幾何学、と言えば中学のときに、国語教師が夏休みに下ネタで作った川柳を提出した生徒に、これはなんと読むか、と質問したときに、
「いくなにがく」
と答え、それは教師の思惑通りだったようで、教師は満足そうに大声で笑った。その教師はそれから6年くらい経ってから癌で死んだ。