意味をあたえる

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電車乗ったら

久しぶりに電車に乗ると、初めは学生の姿が目立ったが、徐々にサラリーマンなどが増え、車内のにおいも変わり、平均年齢があがった。平均年齢と言えば私は来週誕生日なので、もしその日以降であれば、電車内の平均年齢は乗車人数分の1だけ上がることになる。

正確に言えば電車に乗るのは久しぶりではなく、およそ2週間前にも乗って、浜松町まで行ったが、そのときは友達が一緒で、その人と話してばかりだったので、あまり電車に乗っている感じがしなかった。しかしそのときは山手線の中吊り広告で古書市のお知らせが、渋谷にてあるとあったので、それは、電車らしさを感じる唯一の記憶だ。私は古書市というものは図書館の玄関に古くなった本がダンボールに入れられて並べられているのしか見たことがなかったから、古書市には興味があった。正確に言えば、私の参加した図書館の古書市とは、気に入れば勝手に持って行って良かったので、「市」などではなかった。それが行われた玄関というのは、煉瓦色の石の床にヨレヨレのダンボールが幾つも並べられ、その中に本と雑誌が無造作に入れられている。窓際に長机が置かれていて、本を持っていく際には無料であるが、机の上の名簿に記名していく、というのが唯一のルールだった。窓に向かって左側が出入り口になっていて、曲面の自動ドアがあり、右側は壁になっていてトイレがあり、公衆電話があった。しかしこのような描写では、肝心の図書類がどこにあるのか、ちっとも伝わらないではないか!

ところで、さっきの電車のとなりに座っていた男はだいぶ汗臭かった。水色のワイシャツを着て外回りをしてきたことが容易に想像できた。40代後半か50代くらいの容姿であり、短髪には白髪が混じり、若い頃は海が好きだったのではないかと思った。日焼けしていたから。


そのサラリーマンはあまり仕事ができなさそうに見えた。ところでその男は臭かった。私の正面に立つ男はボーダーのポロシャツを着て腹が出ていて、定時帰りを何よりの楽しみにしている風に見えた。私は一瞬、この男は私の父親ではないか、と思った。そういえば父親もこの春から渋谷まで通勤しているから、いきなり鉢合わせする可能性だって、十分にあるのだ。父親の腹が出ているかどうかについては、私は随分長い間立ち上がっている父親の姿を見ていないから、わからない。しかし父親は最近では昼休みに蕎麦屋に行ったら必ずカツ丼セットかカレーセットを頼むというので、結構出ているかもしれない。父親の昼食について聞いたのは最近で、それを聞いた私は60歳を過ぎた男がそんなに食うのかとぎょっとしたが、母に言わせると昔からなのだそう。私は30を過ぎ、なるべく腹一杯食べないよう心がけている。ひょっとしたら私は父親よりも早い年齢で死ぬのかもしれないと思った。