私は今、ベッドの上に寝そべってこれを書いていて、胸の下の部分に枕を入れ、明かりは夕方色の暗めのやつしかついていない。ベッドの脇には小さな本棚があり、それは小さな、というよりも細長い。天井まで届いていて、天井につっぱりがあって、地震が来ても倒れない。しかし、あまり揺れたら本棚が倒れなくても、本が落ちてきてしまうだろう。そのための対策として、私は上の方は文庫本のコーナーとしたのである。
私はさっきまで実家で夕食を食べていて、私の隣の座椅子の上には父親が座っており、父親はとても小さい。それは歳をとって小さくなった、という意味ではなく、父は若いころから、私が子供のころから小さかった。父は私よりも背が低く、私は小学5年のときに父の背を追い抜いた。さらに父は母よりも小さいが、妹よりはでかい。
私の母は父よりも1歳年上であり、母は一年の最初の方に生まれ、父は暮れのころに生まれたので、実質2歳近く離れている。だから、子供の頃の私は、母が父よりも背が高いのは、母の方が年上のためだと思っていた。当時の私は、年齢と身長のかさが、厳密に対応していると思い込んでいたのである。さらに私はその考えを発展させ、将来の男は子供のころは女、女は逆に男ではないかと仮説だてた。だから子供の頃男だった私はいずれは女となり、私は
「嫌だなー」
と思っていた。当時の私は、男に生まれて良かったと思っていたのだ。それはガンダムとかが好きだったからだ。
私はこども時代の男女逆転論について思い出すとき、必ず父の実家の庭の風景がセットになって脳裏に浮かぶ。父の実家は道路よりも高い位置にあるので、坂を登る必要があり、それは勾配がきつい。登りきると右手には梨畑が広がり、その先に物干し竿があり、さらに先には叔父の車のガレージがある。ガレージは青いビニールの簡素な半円の形をしていて、例えるならザリガニの巣のような形だ。その中に入ると、ビニールだから光が突き抜けていて思ったよりも明るく、暑い。真ん中の方はタイヤで踏み固められて土は固くなっているが、端の方の土は柔らかく、そこには無数の蟻地獄の巣が並んでいる。蟻地獄の巣は逆円錐形で、それがもし四角なら、逆ピラミッドのような形だ。子供時代の私は蟻地獄という昆虫がどんな姿をしているのか見たくなり、捕まえる作戦を立てた。
作戦とはこうだ。アリを捕まえてきて巣に放り込み、蟻地獄が出てきたところを私は両手をショベルカーのようにして、大量の土を一気に持ち上げ、アスファルトの上にぶちまけるのだ。すると蟻地獄はやがて見つかったので、瓶の中に入れて、巣を作るところを見ようとしたが、待てど暮らせど巣はできなかった。
ちなみに蟻地獄は成虫になるとウスバカゲロウという虫になり、これを区切ると「ウス・バカ・ゲロ」となり他人の罵倒文句を組み合わせた名称であることに気づかされる。しかし、ウス、というのは聞いたことがなかった。どこかの地方の独特の罵倒文句なのだろうか?
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