意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

寒い

どうにもこうにも寒いので、私は外に出て、それまでいたのはショッピングモールだった。午前中は体育祭の練習があって、そうしたら端っこに土管があって、それはのび太の空き地にあるものよりもひと回り大きく、だから私はそれを覗き込みながら、ひとり007オープニングごっこをした。土管は横向きに置いてあったから。もちろんネモちゃんがすぐそばにいて、私はネモちゃんが土管から落ちないか心配して寄り添うふりをしながら、そんな遊びに興じたのである。もちろん、土管の輪から、007のオープニングの銃口の輪を連想する俺すごいって思いながら。

補足をするとそこは幼稚園の裏庭であり、その幼稚園は私が卒園した幼稚園であった。そこには新しい馬がいるらしい。古い馬の方は去年の夏に死に、それは何代目の馬なのだろうか、と思ったら、私が幼稚園年中組のときに来た、初代の馬だった。人間に換算すると100歳をこえる、と園長が言っていた。それは夏の暑い日で、ソフトボール大会の練習のときで、日陰のほとんどないグラウンドの端っこで、私はその話を聞いた。園長が私のことを卒園生であるとおぼえているかどうかはあやしかったが、私は
「大往生ですね」
と感想を言った。園長はファーストを守っていた。ファーストか、ピッチャーしかできないと言っていた。園長自身ももう70近いから、誰も文句を言わなかった。ずっと子供と接しているから若いよな、とみんな話していた。たしかに、頭ははげているが、背はしゃんとしている。

私が通っていた幼稚園は大変繁盛しており、昨年は新しい園舎をつくり、年少組の教室には各部屋に便所がそなえつけられている。それでも定員オーバーで入れない子供がいると聞いた。私は幼稚園のほんの近所に住んでいるから、当たり前のように自分の子供を入園させて、そこまで志願者がいるとは知らなかった。もう私が通っていたころの面影はほとんどないが、昔は年中と年長の園舎の間に中庭があった。中庭の片隅には、古いリアカーが置いてあり、持ち手のぶぶんには錆が浮き、私はあまり触りたいとは思わなかった。しかし、そこにはサイレンが巻きつけられていて、取っ手を回すとうーうー鳴り出し、回転を早めるとどんどんやかましくなって、何かの悲鳴のようにも聞こえた。私は自分の持てる力を込めて、懸命に回した。回転数があるところをこえれば、別世界に行ける気がしたからだ。

ところで、私はここまで書いて筆を起こうと思ったが、更新する寸前にあることを思い出し、そのあることとは、馬が来たとき私は年長組だったが、馬とはポニーという種類で、私はポニーというのを「本人」と聞き違え、そういう名前なんだと思い込んでいた。すると担任がそのことを親子でやりとりする連絡帳に書き込み、それを読んだ両親は笑いながら、
「あれはポニーだ。本人ではない」
と訂正した。

最近になってその連絡帳が出て来たのだが、しかしながら、そのポニーのやりとりはどこにもなかった。