意味をあたえる

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(5)iPhoneでモノを書くススメ

一斤のパンの人が辞めてから、その後にやってきたのがヤマニシであったが、私はその間にもうひとりくらい、派遣の人が来ていたような気もする。もしそういう人がいたとするなら、その人はおそらくは3日以上は勤めているはずで、そうじゃないとパンの人の記録を下回るから、記憶に残るはずだ。インパクトの薄さで行くなら、2週間か3週間は勤めなければならず、逆に1ヶ月を過ぎれば、派遣期間を満了するから、そういうのも記憶に残るはずなのだ。

 
しかしどうして私はこう、ぐずぐずと、ヤマニシの話を先延ばしにしようとするのか。ヤマニシの前の人など、やはりいない。ヤマニシは紺色の三菱の軽自動車でやってきて、誰が教えたわけでもないのに、一番建物から遠くのフェンス沿いに車を停めた。会社は上空から見た敷地は、大雑把に言うと三角の形をしている。だからヤマニシの車は建物から見ると斜めに停められている。建物、と言うと、まるで私は2階か3階かの窓から見下ろしているようなイメージを与えるが、実際は平屋建てだ。ヤマニシ以外の車は、建物と同じ向きで、つまりヤマニシは駐車スペースでもないところに勝手に停めているのだ。
 
駐車スペースについて、少し補足する。
 
以前私の会社では、車で通勤する従業員は、駐車場の道路側のフェンスに沿って停めていた。先に来た人が1番遠い位置で、それから順番に建物に接近する。だから早く来た人ほど、長い距離を歩かなければならず、そういう意味では早起きなのに得をしないという、不条理な感を私は入社当時抱いたが、逆に遅く来る人は遅刻のリスクがあるから建物に近い、と解釈すれば実に合理的で、やはり利益を最優先する会社組織らしいな、と入社当時の私は感心したのであった。
 
ところが今から1年くらい前に事件が起き、事件とは、私の会社の営業車が車上荒らしに遭うという事件だった。それも2回起きた。私はそんな事件が起きたことは全く知らず、もしそうなら駐車場内にパトカーが来たりして取り調べなども行われただろうが、私は内勤のくせに全く気づかなかった。それは私が窓のない作業場で仕事をしているせいだ。私の仕事は商品の衛生管理で、商品は日に当たると品質が変わるから、という話だったが、実際には水洗いした部品を、早く乾かすために、外に干したりもする。外とは三角形の敷地の、ちょうど斜辺のそばにあたる付近で、フェンスの向こうにはドブがあって、その向こうは木材市場がある。木材市場は全体が幌に覆われていて、中に何があるかはわからないが、木材が積まれているのだろう。たまに大きな音がする。
「ドブ川のそばに商品を干して、衛生管理もなにもないよな」
と誰かが言った。誰かとは、以前にも出てきた離婚した人だった。
 
あるいは、私がパトカーに気づかなかったのは、私自身の性質のせいかもしれず、つまり私は頻繁にぼんやりしている。それを証明するエピソードとして、以前隣の木材市場にやってきたトレーラーが、私の会社のフェンスをなぎ倒すという事件が起きたときに、私だけがその音に気づかなかったのである。それはお昼過ぎの昼休みのときで、私たちは事務所で弁当を食べていた。事務所には窓はある。だから、窓の近くの人は音だけでなくなぎ倒している場面も目にした。窓から遠い人も、大きな音がしてなんだなんだと窓に近づき、そうしたらトレーラーはなに食わぬ感じ切り替えして、道路へ出て行った。そのふてぶてしさにみんなは唖然として、やがてすぐ抗議の電話をしよう、いや隣なんだから怒鳴りこめばいい、などと言いあっている横で私はプリンターの横で、飯を喉に流し込む作業に没頭していた。私は比較的少食にも関わらず、妻は保温機能のついたアルミの容器に飯をぎゅうぎゅうに詰め、おかげで蓋の近くのご飯粒はすり潰され、私はそれを哀れに思いながら、飯を胃の中に押し込んでいたから気づかなかった。
 
 
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