意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

頭のおかしい人からの電話

昨日私は電車を降りた後に、地下にある居酒屋へ行き、そこは向かいがキャバクラだったので、キャバクラに行くんじゃ面倒臭いなあと思ったら、やはり居酒屋の方だった。キャバクラのドアの方が豪華そうだった。しかし私は大して親しくもない人と喋るのはしんどいから、やはり居酒屋の方でよかった。ところで階段の上では客引きの男が立っていて、男はスーツなどを着ていなかったから、遠くから歩いてくる時は、客引きかなあと思いつつもやはりただの立っている男かもしれないと、だんだんと近づきたら客引きだった。私は
「大丈夫です」
と手を振ったが、そのまま階段を降りたから、客引きの人は、
「何が大丈夫なんだよ」
と思ったかもしれない。しかし私は居酒屋の方へ入ったのだ。

その前は階段を降りていて、私は久々に西口の方の出口から出たのだが、見たことのない光景になっていて、言葉が出てこないが、あの、出口を出ても2階が続くという、屋根はとっくに途切れている。照明が華やかで、まだ出来て日は浅いせいなのかまだまだ清潔に見え、しかし同行者は何度か来ているようだった。
「変わっちゃったんだよー」
と教えてくれた。ところで、同行者とは私の以前の職場の先輩であり、その職場とは私が初めて就職して働き出した場所だったので、労働観というか、そういうのはこの人から1番受けている。もう1人、同僚ではないがたまに私の事務所に来ていて、すっかり仲良くなった人がいて、私たちは3人組でたまには酒を飲んだが、その人は下戸だった。そして、昨日は最後までその人は来なかった。連絡もない、と先輩は不機嫌だった。

昨日はその先輩、先輩と呼ぶとなんだか雰囲気が違うから甲さん、と呼ぶが、昨日書いた記事ではたしか「古い知人」と回りくどい言い方をして、なぜそんな言い回しを選択したのかは不明だが、理由のひとつとして、私の母が数年前に受けた電話で「信之だけと、仕事を辞めちゃってさ」と泣きながらかけて来て、母は少しは動揺したが、とりあえず家に来なさいと言って、電話は終わった。実際の私はその時は甲さんと一緒に働いていて、色々事件はあったが、充実した毎日であった。それから少しして私は結局はその職場を去ることになって、しかし、その転職は失敗で、昨日も甲さんに、
「辞めなきゃ良かったんだよ」
と言われた。甲さんはホッピーを飲んでいて、私は私の周りでホッピーを飲むのは甲さんだけで、そのホッピーを運ぶのは眼鏡をかけた細い女の人だが、言葉のイントネーションをよく聞くと、どうやら外国の人らしい。店内は空いていた。私が「古い知人」なんて言ったのは、転職の電話のことを知られたくなくて、距離を取ろうとしたのかもしれない。

さて、ここからが本番だが、私の家にはよく頭のおかしい人から電話がかかってきて、それはほぼ100%母が出ていて、例えば
「今日そちらでお葬式があると聞いたのですが」
という電話がなんどかあった。私はオカルト好きなところがあったから、これは近々誰かが死ぬのかもしれない、とか死神の電話かもしれないと、不安で仕方がなくなったが、母はただ、
「嫌になっちゃうね」
と言いながら、夕食の準備を続けた。私はその時は「大人はやはりすごい」と思ったが、今思えばやはり大人を装っていただけなのかもしれない。私だって今かかってくれば、ネモちゃんや志津がそばにいれば、大して怖くはないだろう。しかし近々誰か死ぬかも、と思うだろう。しかしそのことは決して口には出さず、出してしまったら、子供達の中では現実の出来事になってしまうからだ。大人とは、それほど影響力を持っているのだ。

それから何度かそういう電話があって、私が大学生くらいになると、ついに私がその電話をとる時が来た。私は大学生を熱心にはやらず、家にばかりいたためで、逆に母はホームヘルパーだのをやり始めた頃だから、私が電話を取ったのである。そうしたら、
「大変です。殺人事件が起きたした」
と、おじさんが電話の向こうから言ってきて、私はそういう電話が来ることは知っていたから割と冷静に、悪戯だとすぐに見破り、それなら逆に乗っかってやろうと思い、取り乱しながら、
「え!?それは大変だ。すぐに警察呼びましょう。救急車も。あなたは怪我はありませんか? どこに呼べばいいですか」
とまくし立てた。そうしたら、おじさんは
「もういいです」
と悲しそうに言って電話を切った。それ以来かかってこなくなった。