意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

弟の名前

この前弟のことについてここで書いたら、弟の名前について思い出すことがあり、それをこれから書くが、私は、私の弟が生まれてくる前に、おそらく母方の祖母から複数のカセットテープを贈られており、それを毎日のように聞いていた。それは「お話」の入ったテープであり、ちょっと豪華な開くタイプのケースに入っていて、表側には中の話を彷彿させるイラストが入っているが、中は真っ白のてかてかした薄いプラスチックが、複数のカセットがぴったりおさまるように整形され、例えばカセットの中心の歯車がはまる部分が突起になっていたり、という具合である。かけ算の歌のカセットについても以前書いたが、これはこれよりも少し後なのだろう。私は男の子だったから、再生して流れてくるお話よりも、カセットを入れたり、再生ボタンを押すときに鳴る「がちゃっ」という音のほうが気に入っていた。スピーカーはモノラルの円形で、単身者がインスタント麺を茹でるときに用いる鍋くらいの径であり、大根おろしを作るときのやつみたいに、均等に穴がならび、そこをさするのが気持ちいい。

話はA面B面で独立したストーリーのオムニバス形式であったが、その中に「かずくん」という主人公のやつがあり、私と妹はその話が気に入り、それを一番よく聞いた。しかし、前にも言った通り、私の妹は私よりも3歳下で当時は2歳か3歳だったから、気に入っていたのは、私一人なのである。

私たちはそこで、生まれてくる子供がもし男の子だったら名前をかずくんにしてほしい、と母に頼んだ。母はそのときはもうお腹は大きく、私は腹の大きい母親の記憶などないが、そういう話をしたんだから、腹は大きかったのだろう。「もし男の子だったら」なんて言い方をしたが、私はほぼ間違いなく男だろうと確信していた。そうしたら本当に男の子が生まれたが、私は確信していたから特に驚かなかった。しかし、母が入院してすぐに生まれたからがっかりした。

そして、名前は「和成」となり、私は弟のことを「和くん、和くん」と呼んで、積極的に遊んだ。しかし、それからずっと後になって、私が大人になったある日、母にそのことを話すと、
「それは間違いだ。和成の名前は私とお父さんで考えてつけた」
と言われ、そもそもお話のカセットについても、全く覚えていないと言われた。カセットについては、やがて力をつけてきた和くんが、ある日テープを全部引っ張り出してしまい、一度は鉛筆をくるくる回して元に戻したが、私が学校へ行っている隙にまた、引っ張りだし、私もその頃は別にお話にも興味を無くしていたから、そのときからそれはそういうものだということになり、残りのカセットも全部テープをぐちゃぐちゃにして、飽きると捨てた。ケースについては、いろんな人がそれまでに踏んづけていたから、その以前からぐちゃぐちゃだった。私の家の人はみんな片付けが苦手なのである。

だから、私が弟の名付け親だという証拠は全くなく、前にも言った通り妹は当時は2歳か3歳だから、聞いて確かめようという気も起きない。母親は「和成の和は平和の和だよ」とそれっぽいことを言い(注:和成という名前は今回の記事のために用意した仮名であるから、特に私の両親が平和主義者というわけではない。しかし、戦争は嫌だくらいには考えている)、しかし、私も私でしっかりとした記憶があるから、私は母が嘘をついているような気がしてならない。

ところで、私はそれから人の親となり、ネモちゃんが生まれるときには、おそらく男だという確信があったが、女であったから、弟についても、生まれる前に母に教えてもらったのを勘違いしただけなのかもしれない。今朝ブログを読んでいたら、お腹の中の子供が男の子と知ると、途端にがっかりする父親の話があったが、私はそれはある種の甘えというか、カッコつけのようなもののように感じたが、特にその方のブログを熱心に読んでいるわけではないから、読んだら印象が変わるかもしれない。