意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

カスヤのこと

カスヤの家の隣には竹藪があり、私は竹藪などには本当はまったく行きたくなんかなく、カスヤの家でスターソルジャーをやりたかった。さっきまでやっていた。カスヤはテレビの音量を限界まであげ、柱や天井がびりびりと震え始め、それでもなお上げようとしたらカスヤの母親が怒鳴り込んできて、止まった。そして普段の音量に戻されたのだが、耳は大音量に慣れていたから、随分と小さく聞こえた。カスヤはそれが愉快らしかった。私はシューティングゲームが本当はあまり好きではなかったが、当時はまだ私の家はゲーム禁止であり、だから私はゲームならなんでも良かったのである。それとカスヤはその頃私が好きだったガンダムのガチャポンを信じられないくらい沢山所持していて、学校でいくつあるのか聞いたら、
「600くらい」
と言っていて、ガチャポンは当時ひとつ50円だったから、私は話を盛っていると思ったが、本当だった。カスヤはガチャポンをプールバッグに入れていて、私は生まれて初めて水泳道具の入っていないプールバッグを見た。私が喉から手がでるほど欲しかったガンダム大将軍も6つ持ってるといい、私はダメ元で
「一個ちょうだい」
と言ったのたが、それは学校の話で、家に来たらやるよ、と言ってきたので私はカスヤの家に行くことになった。カスヤの家は郵便局の先だった。

カスヤの家は、バルコニーというか、縁側が前に大きくせり出していて、地面よりも一段高く、しかし窓まで土足で来ていいと言われたので私は落ち着かなかった。屋根はプラスチックのトタンだった。私が靴のままそこに乗ると、板の床がきしんだ音を立てた。グーニーズの映画に出てくる屋敷みたいだった。床下に不とっちょの男の子が隠れていて、フラッテリーママの様子を伺っている。あるいはフラッテリーママの方が、床の上で隠れている。

関係ないが中学の同級生で、フラッテリーママというあだ名の女がいた。私が名付けたのではない。他のクラスの友達が名付けた。私は同じクラスだったから、いくらか情があったから、たしかに日頃から不細工な女だと思っていたが、流石にフラッテリーママまでは出てこなかった。でも確かに似ている。フラッテリーママはベレー帽をかぶっていたが、その女(クラスメート)の方はワンちゃんみたいな髪型をしており、フラッテリーママのベレー帽が似合いそうだった。とにかく似ている。ところで私は全く別の女に、全く違う時期であるが、その女がプレデターの怪物に似ていると思ったから「プレデター」と呼んだことがある。もちろん本人がいないところでだ。その女の子はそこまで不細工ではなく、また性格も特に悪くないので私がなんの恨みがあって「プレデター」なんて呼んでいたのか謎たが、ただのウケ狙いなのだが、私はその後激しい自己嫌悪に苛まれ、だいたい私はその頃は成人していて、大人のくせに女性を「プレデター」とか言って喜んでどうするんだ、それから何年かして友達がプレデターの話を降ってきたときには、
「そんなの知らない。俺はそんなこと言わない」
と嘘をついた。でもフラッテリーママはやはり今会っても、心の中で「フラッテリーママ」と呼んでしまうと思う。グーニーズは、ミニスカートの女の子のパンツの見え方がエロかった気がする。

竹藪にきた私とカスヤ。すると竹藪はどこの竹藪もだいたい同じ景色であるが、一匹の猫ちゃんがいた。猫ちゃんの毛は縞模様だった。カスヤはしゃがんで優しく声をかけ始め、最初は警戒して離れていた猫ちゃんも、徐々に距離を詰めてくるようになった。私は小児喘息でペットのたぐいは魚以外禁止されており、私の両親も動物が好きそうでもなかったからちょうどいいのだが、猫ちゃんの警戒を簡単に解くカスヤが魔法使いに見え、魔法使いは言い過ぎだが、動物に慣れているんだな、と感心をした。やがて猫ちゃんは手が届くくらいの距離まで来て、カスヤは抱きかかえるのかと思ったら、すっと立ち上がり、猫ちゃんの顔をサッカーボールみたいに蹴飛ばした。私の運動靴の甲の部分にも猫ちゃんの頭の感触が伝わり、猫ちゃんは吹っ飛んだが、すぐに体勢を立て直し、あわてて藪の中へ消えていった。