意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

たべものを美味しそうにたべるコツ

最近ではとんと言われなくなったが、私はよく
「食べ物をおいしそうにたべるね」
と言われる。高校二年の時、私がパンを食べていたら、窓際に座っていた男に、
「お前ほんとうに幸せそうにパンを食べるな」
と言われた。そのとき私は廊下側の日の当たらない場所に座っていたから、彼は遠目に私のパンを食べる姿を眺めていたということである。座っていたポジションから推察できる通り、窓際の彼はスクールカースト上位の人間である。だから、彼が
「飯村はパンを幸せそうに食べる」
と言えば、たちまちそれは民意になり、以来私のあだ名は「ハッピー・フランスパン」となり、言いづらいので「ハピフラ」に変化した。

と、勢い余って書いてしまったが、ハピフラの部分は嘘である。その代わり「豚」とか「デブ」とは言われた。当時私は太っていたのである。しかし、私は少しも太っている自覚などなく
「ちょっとぽっちゃりしてるくらいかなあ」
と思っていた。でもやはり意識していた。三学期になって、学校に行ったら、
「あれ、少し痩せた?」
と言われ、私が「そうかな?」とか言ったら、ハピフラが
「ちげーよ。飯村は髪伸びただけだ」
と全否定し、それが民意となった。

私はその言葉に特に傷ついたわけではなかったが、ふと、
「じゃあ痩せてみようかな」
と思い、痩せることにした。その間に二年から三年になり、三年で初めて同じクラスになった人には、私は普通の体型のイメージが植え付けられた。何かの時に、修学旅行のアルバムが開かれると、見た人はとても驚いた。その写真は尾道の階段の途中で私がポーズを撮っているもので、私が見ても顔がパンパンだ、と思ったから、私は
「すぐ顔にでるタイプだから。土地の違う食べ物たべると、すぐこれ」
とか言って誤魔化したが、全くウケなかった。修学旅行は二年の10月ころに行われた。それと、私が激やせしたら、元担任はとても心配した。
「お前胃でも悪いのか?」
と言われた。あと、元クラスメートにトイレで会ったときに、その人は小便の途中だったがとても心配してくれた。

こんな風に書くと、私が太っているから幸せそうに食べると思われそうだが、そうではなく、あるとき、バンドのメンバーとお弁当を食べていたら、ギターの人の当時の彼女が、私の魚を食べる姿があまりに美味しそうだからといって、嫌いな魚を食べてみたらやはり不味くて後悔した、というエピソードもある。

これらのエピソードに共通するのは、どちらも私自身は美味しいと思って食べているわけではない、ということだ。パンにしろ魚にしろ、予想通りの味なので、淡々と口に運んでいるだけだ。作業というのに近い。ただし私は一口がわりと大きいので、そういう姿が、夢中になって食べているように見えるのかもしれない。

ちなみに、私の友達にとても不味そうに食べる人がいて、若い頃に居酒屋でウニを注文して食べたらその人は、
「うまいうまい」
と口をおさえて顔を歪め、正直私はゲボでも吐き出すんじゃないかとヒヤヒヤした。

書き漏らしたが、フラパンは修学旅行中に3、4回鼻血を流している。