意味をあたえる

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○○妻を見ないでの感想

何日か前に、私が一階の茶の間で待機をしていたら、そこでは妻が「○○妻」の録画を見ていた。夜である。そうして出し抜けに
「もし志津が、元犯罪者と結婚したいって言ってきたらどうする?」
と訊いてきた。私は、
「元犯罪者、てことはちゃんと罪を償ったってこと? じゃあいいんじゃない?」
と答えた。私の家の人はこの手の質問が割合に好きで、志津もよく、
「もし顔中ピアスだらけの人を(結婚したいと言って)連れてきたらどうする?」
とか訊いてくる。さっきも、国際結婚の番組を見ていたら、
「国際結婚したらどうする」
と訊いてきた。どうするもこうするもない。私はいつも、
「「こんにちは」て挨拶する」
て答えている。まずは挨拶するのが一般常識だからだ。もちろん相手はそういう答えを期待しているわけではないのはわかっているが、結婚するのは私ではないから、答えようがない。

それで、先ほどの元犯罪者の件だが妻は
「でも世間体とかあるじゃない。AちゃんとかBちゃんにも迷惑かかるし」
と言った。AちゃんBちゃんとは、私と妻のそれぞれの妹のことである。名前を考えるのが面倒だったので、アルファベットでごまかした。なるほど、そういう発想はなかった。なので私は、
「そのときは親子の縁を切るしかないね」
と答えた。

夫婦の雲行きがあやしくなったので、私はドラマの内容を訊いてみると、元犯罪者とは、柴咲コウのことであった。夫は少年隊の東である。私は最初の部分はちらっと見たから、東の父親が平泉成であることは知っている。だいぶ横柄な父親であった。平泉成といえば、私の記憶が確かなら、たけしの「その男凶暴につき」の冒頭で、海に沈められた平泉成がクレーンで引き上げられる、というシーンを思い出す。私は大学のレーザーディスクでそれを見たが、その頃は平泉成もそれなりに顔が売れてきていたので、私はこんな無残な死に方をする平泉成にショックを受けた。

それで、ドラマを観ている人には二重の説明になってしまうが、柴咲コウは、自分の前科が世間に知られれば東の名前に傷が付き、番組を降板させられるのではないかと危惧し、姿を消すのである。東はニュースキャスターなのであった。私は、そんなことで降板させられるなら、もう自分でやめちゃえばいいじゃんか、と思ったら、東もそのように柴咲コウに提案したようだ。しかし柴咲は戻らない。柴咲は釣り堀のようなところでしゃがんで東に電話し、もう戻らないことを告げるのである。

「だけど、柴咲コウが戻るにしろ戻らないにしろ、東は仕事をやめなければいけないよね」
と、私が言うと妻は、
「なんで?」
と即聞き返してきて、私は答えられなかった。

この感じがなにかに似ている、と思ってコタツでおとなしくしながら考えていたら、それは渡辺淳一の「阿寒に果つ」だと思い当たった。

「阿寒に果つ」は高校生の女の子と画家の男が不倫関係になる話で、つまり画家には妻子がいる。最初は女の子が絵のレッスンを受けていて、それがもう天地がひっくり返るくらいの美貌の女で画家がメロメロになってしまうのである。もちろんこんな書き方はされてはいないが、女は、画家以外の男とも関係を持っている。画家は、女を独り占めしたいが、自分には妻子がいるから強く出れない。あるとき画家はようやく離婚する決意を固め、女に伝えると、女は喜ぶ。男は確信を得て、
「別れたら、一緒になってくれる?」
と訊くと、
「それは、わからない」
と一蹴されるのである。「はい」とも「いいえ」とも言わない。男が逆上すると、
「愛ってそういうものじゃないでしょう?」
と女は言うのである。「あなたの愛ってその程度なの」だったかもしれない。私は肝心の部分を忘れちゃったみたいたが、とにかく、なんて女だと思いながらも、すごく腑に落ちた。

だから、東が柴咲コウと一緒になれないからと言って、ニュースキャスターを続けるのは、私は不誠実な気がするのである。一方現実の東は木村佳乃と結婚し、まだまだアイドルを続けているのであった。