意味をあたえる

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リンドバーグ

日本のロックバンド・リンドバーグについて書こうと思うが、あまり長く書ける自信がない。リンドバーグは、私が中学一年の時くらいに、「恋をしようよ・イエイイエイ」をヒットさせて、「リンドバーグV」というアルバムをリリースした。私の友達がそれを持っていて、私はそれをダビングしてほしくて、お願いしたが、ずいぶんもったいぶられたので、腹が立った。アルバムの最後の曲が「朝」というので、
「○○してくれたら、「朝」まで入れるけど、しなかったら入れない」
と要求され、しぶしぶ○○を実行した。○○、なんて書くと伏せ字に見え、まるでエロ本でも万引きさせられたかのようだが、忘れてしまっただけだ。「朝」という曲についても、まったく記憶がない。私が中高のころにエロ本を買った本屋は、みんな潰れたか、改装した。空になったテナントには、学習塾が入った。

私は中高のころはリンドバーグがけっこう好きで、アルバムを三枚か四枚持っていた。「リンドバーグVI」というアルバムの「君に吹く風」という曲が特に好きだった。私はそのころテニス部で、テニスコートにも風が吹いて埃が舞った。自分が周りに合わせられない性格だと気づいたのも、その頃だった。顧問は若い男で、マネキンみたいに顔立ちが整っていて、よく生徒を殴った。男には拳で殴り、女には蹴りを入れた。女に蹴りを入れたときは、さすがに問題になったが、私の学年ではなかったから、噂程度に聞いただけだった。事務室の前の廊下で蹴飛ばしたらしい。事務室の前の廊下は、ワックスがかけられていて光沢があった。彼は技術の教師で、授業で「小さい字を書くためにはどうするか」という話をした。小さくて小さくて見えないくらいの大きさになったら、斜め向きにするといいらしい。それと、割り箸について、割り箸が環境破壊になるのか、それとも余った部分を使うからむしろエコになるのか、色んな意見があると言った。たぶんエコという言葉は使わなかった。

私も一度彼に殴られ、それは大会用のユニフォームをいつまでも取りに来ないからという理由だった。呼びにきた部のメンバーが、
「怒られるぞ」
と愉快そうに言ったが、私は怒られる理由などないと思って、堂々と職員室に入り、
「呼ばれて来ました」
と言ったら、
「呼ばれて来ました、じゃねーよ」
と鼻の頭に裏拳を食らった。それが絶妙な位置で、鼻血が吹き出す部分から少し下の、骨が出ている所に、彼の中指の根元の骨の突起を当ててきた。私は
「殴り慣れているだけあるな」
と思いながら、鼻を押さえてうずくまった。ユニフォームの話など、何も聞いていなかったのである。同じようなのが、他に3人いた。私は一番乗りだったので、三人が殴られる様を眺めていた。私が幽体離脱できるなら、彼らに迫った危機を事前に知らせ、せめて心の準備くらいさせてやれたのに、と気の毒がった。
「どうしていつまでも取りにこねーんだよ」
と彼は真っ赤な顔をして質問してきた。前髪がウェービーで、一昔前の少女漫画のようだった。一昔前、とは、当時からしても一昔前だ。彼、という字に飽きてきたからTとする。私たち四人は、誰もユニフォームのことなど知らなかった。私はたぶんユニフォームの日は休んでいた。サボったのかもしれない。

そうしたら、殴られメンバーの中に松本くんというのがいて、松本くんは、
「聞いてないです」
と正直に答えた。それを言ったらまずいぞ、と残り三人が思った。案の定Tはますます逆上し、伝家の宝刀「連帯責任」を抜き、放送で全部員を集め、
「全員放課後土手百周」
と命じた。土手、というのは私の通っていた中学は川のそばにあって、運動部はみんなそこの土手を走って足腰を鍛えたのである。一周およそ800メートルあると言われていた。その日はテスト前で、部活は休みに入っていたから、走っているのは私たちだけだった。殴られメンバーは、他の部員に、
「なに余計なこと言ってんだよ」
と怒られた。私は黙って走った。そのうち辺りが暗くなると、
「もういい」
ということになって、私たちは帰った。何周走ったのか、途中で馬鹿らしくなって数えるのをやめたので、わからなかった。

それから私はいよいよTが嫌になって、私は三年になって、上級生になって、部活動自体は前よりも嫌じゃなかったが、Tは嫌なので、Tが部活にでる日はサボって家に帰った。家でFFやダビスタに興じた。

そしてそのことが災いして、私たちはついに部室まるごと没収されてしまうのだが、そのことはまた機会があれば書く。

最後に、私には協調性がない、と冒頭に書いたが、そのことにTは全く関係ないことを強調しておく。