意味をあたえる

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夜逃げロード

17時45分に待ち合わせをし、病院へ知人のお見舞いに行った。私は初めて行く病院だったので、早めに家を出ようと思い、思っていたが、結局早くは出れなかった。さらに遅刻した。とても大きな病院だったので、ナビの到着予定時刻は45分くらいを指していたが、玄関まで歩いたら、過ぎるだろうと思った。しかし案外入口のそばの駐車場に停められたので、遅刻は三分ほどだった。雨が降っていた。

さらに待ち合わせの相手とは妹で、妹は3歳下なので、私としては気楽だった。しかし私は結構焦っていた。お見舞い相手のせいか、と私は分析を始めた。相手とは私の親より年上の人で、さらにもう20年くらい会っていなかった。妹も同じだ。そのせいか、と思ったが違うようだった。私の気の進み具合レベルで言えば、ちょうどフラットな感じだった。マイナスでも、プラスでもない感じだ。嫌いな相手ではない。

そして私は、今走っている道が何年かぶりに通る道だということに思い当たり、思い当たる前から「この辺りでこんなことがあった」などと、回想していた。「こんなこと」の一番手は、私の前の前の前くらいの仕事の時、お金がらみの用事でこの辺を訪れたとき、その相手が夜逃げしたことである。実際逃げる現場を見たわけではないので、逃げたのは昼なのかもしれないが。とにかく、ある夕方その家を訪れると雨戸が閉められていて、人の気配がまったくなかった。前に来たときは家の脇にモーターボートのような、ジェット、て言うんでしたっけ? とにかく海でやんちゃに遊ぶような乗り物があって、私はそれを見て、
「金持ちだなあ」
と思ったのである。そのときも確か留守だった。会えたのは最初の一回だけである。そのとき私はお金のやりとりとか、書類の作成を行わなければならなかったが、そういうのは玄関でやるものだとばかり思っていたら、
「上がってください」
と言われてリビングに通され、そこの白いテーブルの前で正座して行った。新しい家だった。遠巻きに奥さんと子供がいて、特にお茶とかが出てくるわけではなかった。私の話はご主人が聞いた。痩せていて茶髪だったので、私は殴られたらやだなあとか思いながら話をした。愛想はないが、悪い人には見えなかった。

そういう思い出があったので、私はその道を「夜逃げロード」と名付けることにした。

それからさらに五年とかそれくらい前に、当日一緒にバンドをしていた3歳下のギターの男がそのあたりに住んでいて、その男はいつも帽子を横向きや後ろ向きにかぶり、ギターの色は白だった。とても高そうなギターで、ケースはチェロを入れるようなハードケースだった。

そのとき私は彼を家まで送るつもりはなかったのでガソリンは空に近かったが、彼は
「大丈夫っすよ」
というから、私は送ることにした。予想していたよりも遠かったので、私は次第に機嫌が悪くなった。たしかそのときはお金もほとんど持っていなかったのである。そうしたら、急に車の調子が悪くなって、ガソリンが減ってくるとこういうものなのか、と思い乗り続けたが、やはりなにかおかしいので一度降りて確認をした。確認したのはタイヤで、なぜか忘れたが、急にパンクでもしたよう気がしたのである。タイヤの空気を燃料に使い始めた、とか思ったのかもしれない。とにかく一度車を降りて四本のタイヤを確認したが、なんともない。ふと思ったが、私は同乗者の彼に当てつけのつもりで車を停めたのかもしれない。彼は車から降りてくる気配はない。当然帽子もかぶったままだ。なんともないんじゃ車に戻るしかないので、私は運転を再開した。そのとき私はうっかりシートベルトを締め忘れた。本当はうっかりではなく、また具合が悪くなるかもしれないと思い、すぐに降りれる体勢をとっていたのである。そうしたら、取締りがやっていて、「あ」と思うと同時に目の前に真っ赤な旗を広げられ、車は路肩に誘導された。私は交通違反となった。その後車はぴんぴんし出した。


※小説「余生」第20話を公開しました。
余生(20) - 意味を喪う