意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

ポイントカード

最近書こうと思っていることが多くで困る。困る、というのは嬉しい悲鳴的なものではなく、例えば記事Aをうっかり下書き保存してしまうと、それを再開させる前に記事Bのことを考えてしまい困ってしまう。これは、記事Bである。

夕ご飯にパンを食べようと袋を見たら点数シールがついていて、私は自分がポイントカードの類が嫌いですよ、ということが無償に書きたくなってしまった。ちなみにパンとは、メープルクッキーというパンで、牡牛座とか、そういう星座のシンボルみたいな形をしたパンである。私は最初メープルのつもりでなく購入し、つまり棚をよく見ずに手に取った。なぜよく見なかったのかというと、そのとき私は飲み物とかも買おうとしていたから手がふさがっていて、かがむと落としちゃいそうだからで、それならどうしてカゴを使わないの? とお思いの方もおられるだろうが、カゴがなかった。店員は男二人でなにやら楽しそうにおしゃべりをしているので、
「カゴがないよ!」
と注意したいところだが、この店の店長が結構怖そうだから言えない。優しそうなら尚言えない。それで、私がかろうじてバランスを保ちながらようやくメープルクッキーを引っこ抜くと、二人は待ってました、とばかりに煙草の棚に寄りかかっていた体勢を直立に重心移動し、レジをぴっとやって、臨戦態勢にはいった。私は待たせていたような、申し訳ない気分になった。

ところで「申し訳ない」という言い回しについてだが、これはそもそも「申し開きができない、何の言い逃れもできないくらい明らかに自分に非があることを認めます」という意味ではないだろうか。それなのに、「申し訳ない、しかしこの件に関しては......」と言い訳を続けるのは、言葉の使い方としておかしいのではないか、とふと思った。

メープルクッキーに関しては、袋を開けたらだんだんと、骨付き肉、それもレンジでチンするような冷凍の骨付き肉にだんだんと見えてきたから、そんな風に食べたらさぞワイルドだろうと思い、横からかぶりつき、しかし中心に骨があることを意識しながら、あくまで外周をはがすみたいな食べ方をしたら、案外もろく、途中で折れた。小麦のかすが畳の目地に入り込んだので、これを書き終わったらコロコロをかけようと思う。そうしたら点数シールが目に入った。

何日か前に、部屋のちび電と、時計の電池が切れたのでワイ電機へ行った。ワイ電機には、その何週間か前にも行っており、そのときポイントカードを提示したら、
「これはもう古いカードなので、使えません」
と言われ、新しいカードに移行した。もしかしたらポイントはそのとき全部消えたかもしれない。新しいカードはデザインが2種類あった。

それで、私は一気に気が楽になって、「これで、無理してワイ電機で買い物しなくてすむし、財布にポイントカードが入っているか、びくびくしなくてもいいんだ」と思った。ワイ電機は、買い物する度に
「カードをお持ちですか?」
と尋ねてくるので、それがいつもプレッシャーだった。即座に出せればいいが、他のカードとごっちゃになったときなどは、なかなか出すことができない。もしかしたら、家に置いてきたかもしれない。散々探してなかった、というのじゃとんだ骨折りなので、そういうときは「いいです」と断りたいのだが、断ると新しいカードを発行されるので困るのである。私の手元には多いときで三枚のポイントカードがあって、そのうちの1枚は法人カードだった。どういう経緯で私が法人格になったのかはおぼえていない。とにかくカードが増えていくと、私はなんとなく不安を覚えてしまうので、ワイ電機のカードは必ず財布の中に入れ、すぐに出せるように心がけた。それが苦痛だった。

それならば、そんな店には行かなければいい、という意見もあるが、実はワイ電機は、私の家の目と鼻の先にあるのである。歩いて行ける距離である。だから、散歩のついでに寄りこんで買い物できるので困ってしまう。ワイ電機の前はパチンコ屋があって、そこは私が小学三年くらいのときにオープンしたが、そこの建物を建てるときに、職人が転落死したらしい、という噂がクラス内に流れたが、真偽はわからない。もっとも、知り合いに大工や鳶がいると、転落というのはしょっちゅうで、
「俺も昔玄関先で落ちた」
という人もいた。その人は、落ちる瞬間に「このまま死んだら施主さんに迷惑をかけてしまうから死なない」
と思ったら、死ななかった。もちろん死ぬパターンもあるだろう。死んだ人が死ぬ直前に何を考えるかはわからない。

とにかくワイ電機のポイントカードが新しくなるというので、私はこれを機に「カードなしユーザーになろう」と思い、断る間もなく袋に入れられたカードを家に帰って即座に捨てた。それで、何週間か経って、ちび電と時計の電池を買いに行きできるだけ安く済ませようと、電池はマンガン電池にした。そうしてレジに行ったら案の定、
「ポイントカードはお持ちですか?」
と聞かれたので、胸を張って
「持ってません」
と答えたら、またも黙って新しいカードを袋に入れたので、私は落胆した。
「いらないです」
と言えばよかったのだが、せめて一言くらい
「お作りしますか?」
とかあると思って油断したのと、相手が気の弱そうなバイトの少年だったので、、つい情をかけ、今度は前回と違うデザインのほうにしてしまった。次回はきちんと心の準備をして、しっかりと断りたい。