昨日保坂和志「遠い触覚」を読んでいて、そうしたら山下澄人の舞台を見たときのことが記されていて、タイトルは「インランド・エンパイアについて」だったので、やはり山下の舞台はリンチそっくり、みたいな話になっていて、こうやって書くと予定調和っぽい。だけれども内容は秀逸でフィクションについてかなり興味深いことが書かれていたので、これは私の記事で引用して、私の人気度を高める作戦に出たので、私は今朝はあまり早起きできなかったので、会社の休憩中に引用してやろうと思い、「遠い触覚」をバッグに入れたのだった。「遠い触覚」は、単行本なのでそれなりの大きさであり、そうするとバッグにはお弁当も入れなきゃなので、バッグはパンパンになった。そのバッグを選んでくれたのは妻で、妻は本は全く読まない人なので、本をバッグに入れるなんて、夢にも思わないからバッグはパンパンになる。しかし、文庫本ならば一冊余裕で入るくらいのスペースならある。
私は今朝はあまり早く起きなかったのでお弁当を作る余裕がなく、本当はあったが子供が起きてきたので目玉焼きを焼いたりしたらすぐに時間になったので、家を出た。ご飯だけは釜から少なめによそい、ご飯を熱心に食べないと夜になって冷たい飯を食う羽目になるから、昼でも一生懸命米を消費した。あとはカップラーメンでも買えばいいやと思い、せっかくならセブンイレブンが良いと思ったのでセブンイレブンに寄った。祝日なので見慣れない顔の、顔立ちの整った女の店員だったから、てっきり接客は最低かと思ったが、そこそこ丁寧だった。私はいつもレジカウンターに商品を出すときには小声で
「お願いします」
と言うのだが、女は
「はい、お預かりします」
と反応したので、私は
(接客態度が良いな)
と思った。
それでカップラーメンを私は購入したが、バッグには本が入っていたから、私はカップを鷲掴みにして会社の建物に入り、打刻した。私はいい気になって、
「袋はいいです」
なんて言ったからそういう羽目になったのである。
それで何がシュールなんですか? という話なのだが、カップラーメンを買う前に国道を走っていたら、道端にテニスのラケットを縦向きに持って立っている女がいて、例えばコートでもないのにラケットをむき出しにして持っているのは珍しい。女はかなり集中して道路に対して顔を直角方向に向けていたから、運転席からは横顔が見えた。ポニーテールである。ラケットが硬式用なのか軟式用なのかわからなかったのは、私もそれなりにスピードを出していたからである。そこは片道二車線の国道であった。
私は即座に
(これは待ち合わせだな)
と思った。ラケットを目印にして意中の相手であるかどうかを判断する作戦である。出会い系の、オレンジのパーカー、とか、その類である。しかし、女の周りには人なんかいないし、そもそもそこは国道の道沿いで国道は駐停車禁止だから、こんなところで車の乗り降りを行えば道路交通法違反である。つまり待ち合わせに適した場所では決してない。道沿いには歩道は敷かれておらず、それなりに危ない。女の背後は雑木林になっていて、これも考えようによっては危ない。すぐそばには「I鉄工」の朽ちかけた看板が立っていて、私は前の仕事でi鉄工のせがれと関わったことがある。i鉄工のせがれはせがれと言っても私よりも全然年上なのだが背が低く、髪は短くて所々に円形脱毛があり、種族で言えばドワーフのような体型をしている。声が高く、物腰の柔らかいしゃべり方をするが、一度電話口でむちゃくちゃにキレられたことがあった。一度夫婦で事務所にやってきたことがあったが、女の方が実は姉であった。独身というわけではなかったが、妻は一度も姿を見せなかった。