意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

ナポレオン2

昨晩またA氏によって私の過去の記事に星がつけられ、その通知が私の元にやってきた。それがナポレオンの記事だった。タイトルがナポレオンなのではないので、最初私はそれがナポレオンについてだとは思わなかった。以前A氏に話を伺ったときに、
「カテゴリーで追っています」
と言い、
「そういうカラクリでしたか」
と私は答えた。そのことを私はおぼえていて、だからまずはカテゴリーに注目すると「ナポレオン」だった。

ナポレオンは私の高校時代の友人のあだ名であり、名付けたのは私だ。彼はいつも逆立てた髪型をしており、ある日散髪をしてきたら、なんだかナポレオンの帽子に見えたから、
「ナポレオン」
と呼ぶことにした。しかし何度も呼ぶと「ナポレオン」と最後まで発音するのが億劫になってきて、次第に「ナポ」と呼ぶようになった。妹が高校の時には友人にナポレオン・フィッシュというのがいたが、その人の場合は、
「フィッシュ」
と呼ばれた。なぜナポレオン・フィッシュなのかは知らない。

ナポは高校を卒業した後二年間専門学校に通い、そのとき私たちはよく遊んだ。私はそのころバンドを組んでいて、ナポはライブにも熱心に足を運んでくれた。打ち上げでは酒も飲んだ。しかし二年経って卒業するとナポは就職して一気に疎遠になった。その前にナポは激やせした。冬に鍋をやろうということになってマミーマートに集合ってなったら、鮮魚コーナーの方からナポがやってきた。黒い足まで隠れるコートを着て、いっしゅん黒だから細く見えるのかと思ったがやはり痩せていた。しかし顔はふっくらしていたから、アンバランスだった。アンバランスだったのは以前の方だった。髪型は相変わらずナポレオンだった。私を喜ばそうと髪を固めてきたのかもしれない。それから私たちは鍋をした。仕事が忙しくて飯を食う時間がない、とナポは激やせの背景を語ったが、痩せて嬉しそうではあった。

ナポについてよからぬ噂が流れてきたのはそれから程なくしてからのことだった。共通の友人の話によると、突然ファミレスに呼び出されて行くと、知らない人がそこにいて、変な商材を売りつけられるらしい。それは比較的効果だが、同じ物を友人知人に紹介すればマージンが入り、結果的に安く買うことができる、それどころか金が儲かるらしい。ナポが儲けたいのは明らかだった。在学中にあまり親しくなかった人でも、PTAの名簿を片っ端から電話しているらしい。私たちの学生時代はPTAの名簿というものがあって、容易に生徒の個人情報にアクセスできた。名簿業者が
「○○さんの電話番号を教えてください」
と自宅に電話してくるような時代だった。

私たちは変わり果てたナポのことを聞いて震え上がり、絶対に誘いに乗らないように注意した。私は「ゆ」だからもう少ししたら電話がかかってくるかもしれない。そうしたらなんと言って断ればいいか。ナポは卒業文集のアンケートの「クラス内で面白い人」で私に票を入れてくれ、そのおかげで私は「クラスのおもしろい人」男子三位に入れたのだが、その借りを返せと言われたらどうしよう。しかし、三位と言っても一位が三人、二位が二人の実質六位で、しかも私の高三のクラスは男子が16人しかいなかったから、実際私は「普通の人」なのである。女子の票がまったく集まらなかったのである。小説なんか書いていたせいだ。しかし同じ小説仲間は数人の女子に
「どんなの書いてるの?」
なんて訊かれたりしたが、それを後ろの席で見ていた私は、次に私が訊かれたらなんて答えよう、とか心をときめかせていたら、次がくることなんてなかった!

私はそのことを相当根に持っていて、前日仲間に会ったときにその話をしても、当人はとっくの昔に忘れていた。

ところでナポから私に電話が掛かってくることはなかった。私はそのときまだ学生だったからである。