意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

レントゲンのような雲/アカマツの前にて

ここのところ人が大勢いるところに出かけることが多い。ハイライトとして一昨日を「レントゲンのような雲」、今日を「アカマツの前にて」とすることにして区別する。昨日は普通に仕事した。インフルエンザの予防接種を受けに行くよう会社に言われたが、突如なくなった。担当であった営業のYさんに、朝、詳しい時間や場所を訊ねようと思ったら、私が駐車場に車を入れるやいなや、マイクロバスの運転席におさまるYさんを発見し、マイクロバスは駐車場内を大きく旋回すると、そのまま通りに出てどこかへ行ってしまった。普段の営業は白い軽自動車なので、マイクロバスはどこかから借りてきたと思われる。Yさんは50歳くらいの男で、白髪混じりの短髪で、車を運転するときはいつも目尻のつり上がったスポーツサングラスをかけている。本人の言うところによると、網膜が人より弱いため、サングラスをかけないと、視力を失う可能性がある、らしい。スポーツサングラスをかけたY氏は、野球のコーチに見える。私はスポーツサングラスというのが、なんとなく苦手だ。あとY氏は持病があるらしく、ここ数年で5キロ痩せたと、あるとき話してくれた。

スポーツサングラスをかけるだけあって、Y氏は野球が好きであった。新人社員歓迎会のときには必ず男子に野球経験の有無を確認し、あってもなくても
「野球チームをつくろう」
と提案した。女子ならマネージャーであるが、昨今のソフトボールブームによって、ソフト経験者であれば、特別にメンバーになることもできた。まだソフト経験のある女子は入ったことはないが。私はバンド経験者なので、いつも応援団長を任せられたが、私に応援する気はさらさらなかった。所長はゴルフが趣味なのでゴルフ仲間を増やしたいがY氏にいつも押し切られ、黙って酒を飲むばかりで、結局途中で帰った。一方のY氏は出世の道を断たれた。

結局Y氏がマイクロバスで朝からどこかへ行ってしまったので、私は
「遠征かな?」
とか思った。営業所のチャラい後輩・Nに確認すると、
「マジっすか? インフルエンザっすか? 俺小学校のときに病院でインフルエンザ打ったら、本当にインフルエンザになって」
と武勇伝のように語ったが、インフルエンザ打ってインフルエンザになるのは、当然ではないか、と思ったが
「マジかー」
と話をあわせた。見かねた事務のSさんがやってきて、予防接種の件はYさんがとりまとめているが、こちらは詳細は聞いていない、と言われた。

Y氏は結局その日は戻ってこなかった。