子供たちの学校は二時間遅れとなって、それまでにシキミと軽く雪合戦をしたら、シキミは程度を知らない子供なので長靴の中まで濡らしたので長靴の中にビニールを入れ、靴下が濡れないようにした。しかしビニールは薄くてすぐ破けたので、替えの靴下を持たせた。月曜なので荷物が多いので気の毒だった。
ナミミは、ナミミの学校の校則だと生徒は白い運動靴しか履いて登校しなければならないといって、白い靴で家を出たので愚かだと思った。しかしその少し前に、私が家の前で車のフロントガラスに積もった雪をシキミにぶつけて遊んでいたら、シキミは傘を盾にして私の攻撃を防ぎ、そのために頭が濡れた。雪は雨に変わっていた。そうしたら、シキミと同じ中学の男の子が詰め襟を着て、白い運動靴で車の轍を平均台みたいに歩いていたので、馬鹿なのはナミミだけでないと思い、安心した。
中学校は真っ白な靴、というきまりは私が中学生のころからあり、あと相変わらず部活は全員必ず入らなければならない上に、ほとんど運動部しかない。私はナミミが中学入学時に園芸部を強く薦めたが、妻が、
「園芸部は障害者の子しか入れない」
と言って却下した。どうして健常者は土いじりができないのか、私は納得できなかった。余談だが、私の父は農家の息子で、母は農家のせがれの嫁で、庭いじりが好きで「趣味の園芸」というテレビ番組を熱心に見ていた。私が小学四年のときにわが家はビデオを購入したが、そのとき母は私に
「趣味の園芸を録画してほしい」
と頼んだ。そんな両親はお互いに障害者施設で働き、知り合ったのだからナミミの部活と何かしらの因果があるのかもしれない。ねえよ。
ちなみに、父と結婚して母は私を産むが、それと同じ年に勤めていた施設は名称が変わり、建物も新しくなった。なので父の同僚や上司から私は
「あなたは施設と同い年なのよ」
と施設のシンボルのように扱われた。父はおよそ五年前にその施設を追い出された。同僚や上司はその前からいなくなっていた。
話がそれたが、私はナミミや同級生を愚かだと評価したが、翻ってみれば我々大人も同じで、今日この雪の中律儀に勤め先に行った人もやはり愚かだ。もちろん医者とかなら話は別だが、それ以外のいてもいなくても同じ勤め人などは、有給をとって家に籠もり、本当にいなければならない人に道を譲るべきだ。私も早い段階で休みをとることに決め、今は優雅に下界を見下ろしながらこの文をつづっているーーなどと言えば格好がいいが、私はたまたま事前に休みを申請していて、そのときは雪が降るなんて思っていなかったから、ラッキーなだけだった。二年前の雪の時も休みだった。そして休みじゃなかったら、多くの人と同じように車がスリップしないか冷や冷やしながら会社に向かっただろう。雪が降ることが予めわかっても、有給をとることはできない。
それは前述のナミミの例と同じで、ナミミの白い運動靴にかんしても、私が学校に
「どうしてこんな天気なのに長靴じゃダメなの?」
と言えば、別に長靴でかまわない、と返ってくるだろう。白い靴は校則なんかではない。しかしそれをナミミに伝えても彼女は運動靴で行く。有給も取ってはいけない決まりはなくとも、取れない。
私は世の中のそういうところが嫌なので、そういう日はわざと遅刻するとか、できる抵抗を少しずつやっていきたい。