昨日棚を組み立てたので、それはナミミの部屋に置く棚なので、ナミミがお年玉で買った棚だった。部屋には元から金属の網棚が置かれていて、それは元の部屋の持ち主である義妹の置いたものであったから、ナミミの趣味ではなかった。だから新しい棚をカインズホームで買ってきた。しかしどう見ても新しい棚の方が容積が小さいのでそのことを指摘すると、
「入りきらなかったら捨てる」
とのことだった。ナミミはまた、古い教科書は捨てるべきか、と私に訊ねてきたが、私としてはじゃんじゃん捨てても良いと思っているが、教科書というのは、なぜか後から
「持ってない?」
と聞かれることがある。私は二度ほど聞かれ、一度目は母親が老人の施設に勤めていたときに、元校長先生という人が介護される側にいて、そういう人に昔の教科書を見せると喜ばれるのだそうだ。二度目は妹が誰かにきかれたが、忘れた。
古い棚は大変大きく、処分に困ったので、会社に寄付することにした。しかしその前に車に乗るのかと思い、運転席以外の全部の座席を倒し、縦にしたり横にしたりしたらなんとか入った。少なくとも15年は置かれた棚であり、支柱は白い粉を吹き、私の座席や、ズボンが汚れた。それは買ったばかりのズボンだったので、私の中で義妹を憎む気持ちが増した。棚はデコレーションされていて、それを引き剥がした際に両面テープがベタベタするのも鬱陶しかった。ベタベタがみんなに嫌がられたらどうしよう、と思った。しかしそうは思わないはずだ。今使っている棚が、錆びに錆びて赤黒くなり、支柱が一本折れたが、それでもひっくり返して使っているくらいなのだ。ひっくり返すと、今まで物を置いたぶぶんが支えるぶぶんになって、置くぶぶんは面だから面でささえることになって棚は安定した。しかしみっともないのはみっともないから、上司に新しいのを買ってほしいと頼んだら、そのときはちょうど本社から偉い人がくる前の週だったので、また本社に目を付けられるよ、と警告もしたのだが、上司は、
「そういうことを気にする人じゃないから」
と、仲良しアピールをした。気にしてんのはこっちですけど、という気分だった。
しかし面で支えたら安定したからそれからみんなは新しい棚に興味がなくなって、私も同様だったが、ナミミが新しい棚を買ったから、興味が復活した。今朝は雨が降っていたので、建物のなるべくそばの、屋根が出ているところに車を停め、それから先に出勤登録をし、そうしたら先輩のMさんがいたから、
「下ろすの手伝ってください」
と頼んだら
「何を?」
と訊かれたので、
「棚です」
と私は答えた。すると向こうは
「いいよ」
と言った。
しかし私が再び車に戻ると派遣の人が私の車のそばにいて、中をのぞき込んでいたから、この人と一緒に下ろしたら簡単に棚は出てきた。昨日は子供二人とあんなに苦戦したのに。車に乗る前に、棚は二階にあったから、階段を下ろすのにも苦労をして、壁や天井にがんがんぶつけながら下ろしたが、私の家ではないからそれほど気にならなかった。車は私の車だが、やはりシートが汚れたりしても私は気にしなかった。下ろすのはあっさりできたので、私は
「やはり子供より大人だな」
と思った。棚の入れ替えなども、派遣の人がほとんどやってくれた。この人は朝から張り切るタイプなのである。ゴミについて訊かれたので、
「その辺でいいです。業者が置いていったら、また考えましょう」
と私は答えた。業者と言ったってただのゴミ収集業者だから持って行く可能性は低いが、私は棚を下ろす手伝いをしてくれた派遣の人に、これ以上とやかく指示をしたくなかったのである。
仕事が始まると私の嫌いな人が、
「こんなきれいな棚を持ってきて、弓岡は上司に媚びて出世を目論んでるな」
と言われむっとしたが、嫌いな人がもっと嫌いになるようなことを言ってくれるからむしろありがたかった。