ともだち、と言っても小学校くらいまでの近所に住んでいた男なのだが、大変珍しい苗字で、生きてきた中で同じ苗字の人に会ったことはない、彼の兄弟、家族は除く。彼は3人兄弟の長男で順番に弟と妹がいる。弟は私の妹と同い年であるが、妹は私の弟と同級ではなく、ずっと年は下だ。妹はたしか、私が小学生にあがってから、彼と友達になってから生まれた。末っ子の年の離れた妹なので、家では姫のように扱われたのかもしれない。
彼の家は玄関の前には小石を敷き詰めた庭があって、脚が片側しかないサンルーフがあり(大雪でよくへし折れるやつ)、雨に濡れないぶぶんに彼と弟の自転車が立てかけてある。そのため、彼の父親の車は、運転席側が雨に濡れる。一方おどろいたことに、彼の家は家の裏側にも庭があり、そこには芝生が敷き詰められている。厳密にはそうではないが、彼の家は北向きに建っており、そのために裏庭に全力を注いだのだろう。しかも裏庭の塀の向こうは空き地になっていて、ひょっとするとその空き地も彼の家の庭のようにも見え、まるで彼の家が大地主のようであった。実際は彼の家は後から越してきた新住民だったのだが。彼の家の裏庭は、土着の家である私の住まいからよく見えた。私の家は南向きである。ある雪の日に彼の家の裏庭で雪合戦をしたとき、誰かが彼の弟の顔に雪の球をぶつけたら弟は激しく泣き出してしまい、そのまま中耳炎になった。しかし彼の親はなにも言ってこなかった。
彼の両親は二人とも教師であった。両親とも体格が良く、なんの教師なのかはわからなかったが、体育の教師かもしれない。とくに母親は肩幅が広かったから、迫力があった。肩の上には真っ黒の髪が垂れかかっていた。また、父親のほうは私たちが六年のときの参観日が体育で、そのとき担任の提案で大人vs子供のフットベース大会のときに一番バッターで、いきなり先頭打者ホームランをかました。私はBチームだったので、ジャングルジムの上から外野の頭を大きく超えるボールを目で追った。二打席目は普通のヒットで、クラスのご意見番が、
「ありゃ手を抜いたな」
と言った。一方私の父は運動神経は決して鈍くはなく、中学時代は陸上部だったが、いかんせん背が低かったので、センター前にヒットを打つのが精一杯だった。しかしピッチャーをやって主婦たちを仕切ったので、私の面目は保たれた。
今日ナミミと遊びに出かけたときに、彼の苗字と同じ名前の企業の前を通ったので思い出した。