意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

パンの命名

私が十代の後半くらいから、母はよく自分の実家へ行くようになり、実家とは東京都豊島区にあり、私の家からドア・トゥー・ドアで2時間近くかかる。そうすると母は午前9時ころに家を出るが、帰りは18時近くになることもあり、夕飯の支度のつなぎとして、よくパンを買ってきた。母はパンの好きな女であった。だから、16時とかに帰ってくるときも、変わらずパンを買ってきた。そういう親に育てられたので、私もパンが好きであった。

母は池袋駅東武デパートのパン屋でいつも買ってきて、それはいくつか種類があり、その中に生地を薄くのばしてカリカリに焼いたパンがあった。味はいくつかバリエーションがあり、ピザ味と甘い味と、あともう一種類くらいがあった。大きさは三十センチくらいの楕円形だった。とにかく薄かったので、私はそれを「草履パン」と命名し、母が実家に行くというときは、そのパンをリクエストした。今でも売っているのだろうか。

パンの命名についてはパン屋に任せられており、昔近所のパン屋に、バスケットボールくらいの大きなメロンパンが売っていて、さらに中にはたっぷりとバターが塗られていて、私はそれも気に入っていて、母に「デカいメロンパン」とか言ってリクエストしていたら、後年、そのパン屋が潰れてしばらくしてから、その名称が「UFOパン」であると知った。どうして知ったのかというと、私があるときアルバイトを始めたら、そこのパートの主婦が昔そのパン屋で働いていたといい、件のデカいメロンパンの話をしたら、
「あれはUFOパンっていうのよ」
と教えてくれたからであった。その口振りから、あと二人か三人には、UFOパンの本当の名称を教えたんだな、と私は直感した。

そのパートの主婦の家は国道沿いにあり、国道はまっすぐの片道二車線で坂道を登りきったところにあり、ドライバーが思い切りアクセルを踏み込むので、よくスピード違反の取締りをやっていて、主婦の家の門柱の影に、警官が隠れてスピードを計っていた。警官は取締りの度に
「今日もよろしくお願いします」
と律儀にその家の人に挨拶をした。