朝霧が出ていてその中を走った。走っているときに考えごとをすると走る時間は短く済んだが、うまく考えられないこともあった。村上春樹は走りながらたまに小説のことを少しは考えると言っていた。私も仕事のことを考えるときがある。あのときあいつの発言はスルーしたが、怒るに値することだったな、と怒りのトレースをしたりする。
ところで若い人には臭い人が多い。最近更衣室が雑巾のような臭いがしていて、会社の建物は手抜きだかなんだかたまに下水の臭いだのがして、臭くともとくに驚かないが、何日かしてようやく
「臭いな」
と臭いを認識した。そのころには会社内でも「臭いな」と噂されるようになり、どうやらそれは若い社員だということがわかった。靴か靴下が臭うらしい。私がなんで若い人が臭いと決めつけるのか、若い読者は傷ついたかもしれないが、以前も会社内が臭くなることがあり、その臭いの主は若い派遣社員であった。私の中では二例目なのである。そのときは帽子が臭かったので、すぐに洗うように指示した。作業用の帽子だったので、その間はタオルでも頭に巻いておけとなって、彼は帽子よりもタオルのほうがよく似合った。ラーメン屋か、便利屋にでもなればよいと思った。誰かが臭いと、あなた臭いですよとはなかなか言いづらく、そのため自分が臭いような気がするが、私が臭いことは一度もなかった。もちろん自分の臭いとはわかりづらいが。妻に会社の臭いについて話すと、
「洗濯物が生乾きなのではないか。その人ひとり暮らし?」
と訊くので首肯すると、じゃあそうだ、とまるでその人に責任がないような口振りだった。妻はよほど若い男が好きが、臭いについて苦い記憶があるのではないかと推測する。