意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

駅でたおれているひとがいた

ひさしぶりに電車に乗ったら中吊り広告に週刊誌のがなくていくぶん爽やかだった しかしドアーのところには予備校のシールタイプの広告が貼ってあってどんよりした気分になった 私自身が予備校にひどい思い出があるというわけでなく、私はそもそも予備校には行ったことがないのだが 宮本輝の小説で予備校をサボって橋のところで缶を立てひたすら石をぶつけるというのがあった おそらくどんよりした気分のときに予備校の広告を見たからであろう どんよりというのは胃の底に脂っこい汁がたまる感覚である 私からすると電車自体が脂っこいイメージがある 夜のそこそこ混んだ車内は床や壁や手すりもぬるぬるしていて心地悪い 朝のぎゅうぎゅうも嫌だが朝に行ったことというのは過去になりやすい 朝にランニングすると昼過ぎには数時間前に運動したことのリアリティがかなり薄くなってしまう 難儀なことは朝にするのが良い


駅のベンチで体をくの字ににしてたおれているひとがいた 酔っ払いだろうか そばにはコンビニの袋が放り投げられている くの字なのは腹のぶぶんに肘掛けがあるからでこれはホームレスが寝床にするのを防ぐためにあるそうだ しばらくすると駅員がふたりやってきて年配と若いのだった 年配は上着を脱いで水色のシャツ姿であり若いのは紺の上着を羽織ったままだ どちらも帽子はかぶっていて年配が赤い旗を持っている 私は反対側のホームにいて私の位置からはその赤い旗でたおれているひとをつついているように見え不快だった 実際はそんなことはないのだろう 話の内容は聞こえないがやがてはたおれているひとがゆっくりと体を起こし大きく何度もうなづいた 大丈夫ですというアピールなのだろう 吹っ飛んだコンビニの袋を若い駅員が拾い上げてベンチに置いた そこはさっきまでたおれていたひとの上半身を担当していたぶぶんで再び倒れることにたいする駅員の牽制に見えた たおれているひとは袋の中身を熱心に確認していた 年配は笑っているように見えた 若いのは私に背を向けているから表情は見えない 緊急性は低いのだろうか やがて駅員は立ち去り電車がやってきて私がそれに乗ると中吊り広告に週刊誌のがなくて驚いた