意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

途中式(14)

移動中は寒いくらいだったが新幹線を降りて目的地の工場に着くと蒸し暑くて不快だった 新幹線は適温で10月のようだった 名古屋から合流する人は4両目に乗った 私たちは2両目に乗って彼が乗り込むのを見かけたのである 2両目には私と、鴨下さんという人が乗っていた 鴨下さんは物語の後半で登場するので今はそういう人がいるということを覚えておいてもらいたい 名古屋の人は坂口といって眉間にしわを寄せ不機嫌そうだった 自部署でも怖い人なのだろう 仕事中の私語を許さないと言っていた 私は坂口とは社内ランクは同じなので特に坂口は怖くはなかった むしろ坂口が私を怖がっているようにも見える 私が作業場に音楽でもかけたらというと
「冗談じゃない」
と返された 「数字が落ちるから」と言っていた 確かに坂口のところの「数字」は良かった 私のところはいい加減なので悪かった 私はとにかくあまり社内でその悪さが目立たないようにして日々やり過ごしていた しかし坂口のところもダントツというわけではなく私たちは一番のところの大阪のヤナイさんに会いに行くところだった


ロッテリアで昼を食べ恐ろしいくらい小さな店舗だったので私はイスに挟まってしまい集合時間に遅れそうになった 心配したスタッフがお盆を受け取ってくれ、それからさっきとは反対回りにイスを回転させたら出れた カウンターのところの回転はするが位置は動かせなくて固いイスだった 床が汚らしかった 「腹が減っていない」と鴨下さんに言いふらしたくせに順番が回ってくるとポークリブセットを頼んだので鴨下さんが「裏切りましたね」とむくれた 鴨下さんは水しか頼まなかった 大阪の水は格別だと言いながらごくごく飲んだ 馬鹿にした目で見ながら私はアイスコーヒーを口にした イスに挟まった私を鴨下さんは助けてくれなかった


タクシーで工場に行くととても個性的なタクシーだった 数珠の多いタクシーだった 運転手はピアスをあけ冷房の送風口のところにiPodが刺さっていた そのため料金を表示したりレシートを出したり諸々の機械がみんな彼の発明に見えてきたタクシーには鴨下さんと坂口が乗ったから私は助手席だったのである


工場は中も冷房の利きが悪くて次第に頭が痛くなりふくらはぎがぴくぴくと痙攣した どこかで座りたかったが色白の作業員が得意げに説明を続けるから休む暇がなかった 荷物は入り口で没収されたので水も飲めなかった 鴨下さんは大阪の水を飲んだから元気だった 色白の話が面白くないのでルートを外れて勝手に見ていたら上役の人が寄ってきて私を注意した この人も名前があるがこれ以上名前を登場させてもこんがらがるだけなので名前は出さないことにする パーソナル情報としてはこの人は新婚旅行が新潟だった 新潟に有名な芸術家がデザインした公園があるらしい