意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

12月と少年

本当はとっとと帰りたかったんだけど
彼女がどうしてもと言うから
夜のイルミネーション・パレードを見ることにした
派手な電飾に目がちかちかして
おまけに体の芯まで冷え切った
12月ってこんなに寒かったっけ?

山小屋みたいな売店へ避難
暖炉があって ウッドデッキがあって
人混みをかき分けて
サンタの格好をした店員から 二人ぶんのコーヒーを受け取る
「まじで死ぬ、もう帰る」
そう文句を言う僕に
「うん、あとはお土産買ったら帰ろう」
となだめる彼女
もう付き合い出してどれくらい?

溢れかえった人々の中に
自分と同じように疲れきった顔を発見して
僕は心の底から安心する
もっといないかと探していると
やたらと大掛かりな車椅子を発見する
リクライニングに寝そべっているのはまだ少年で
枯葉色の毛布でぐるぐる巻きにされた姿は
ツタンカーメンを連想させる
多分言葉も喋れない
口を半開きにさせ 目は輝いている
彼に意思があるのか 僕にはわからない

少年ツタンカーメンのことを彼女に伝えようとすると
同じタイミングで彼女が「あ、ツリー」て立ち上がる
彼女には少年が見えない 僕にクリスマスツリーが見えなかったように

それほど大きくないもみの木には 沢山の短冊
当然のように彼女は駆け寄って カウンターで自分の願いを書き始める
僕はコーヒーをこぼさないように注意しながら 彼女の背中を追う
「君も書けば?」 僕は首を振る
僕には 願い事なんて ない

「どんなこと書いたの?」僕の問いに「秘密」と答えた彼女は
誰の願い事よりも高いところに自分の短冊をぶら下げようとして
精一杯 背を伸ばす
白色のコートがせり上がり 下から柄のスカートがはみ出てくる
一番下 つま先立ちの 茶色くてぴかぴかのブーツの下に
誰かの短冊が落ちているのを発見する
彼女に見つからないように そっと それを拾う
靴跡がくっきりついて 端っこはちぎれている
「今年もみんなで一緒にクリスマスが過ごせますように」
小学3年生男子っぽい字だ
みんなで だって

僕はそれを 自分のポケットに突っ込む

帰り道 今年のクリスマスこそ雪が降るといいね と彼女が言う
そうなったらステキだね と僕が答える
僕の左隣で クリスマスプレゼントをあれこれ検討する彼女
僕は心の中で 今年も雪なんて降るなよ と願う
彼女の願いなんて叶えるなよ と願う