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意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

ペットとの別れはつらい

保坂和志 小島信夫 読書瞬間

私はペットの類を飼ったことがないから、別れも何もないのだが、ところで今日は仕事始めで午前中に仕事をしたらお昼になったのだが、今日は人数の関係で後輩のH・Kくんと別室でお昼を食べることになり、そういうときはいつもそうなのだが、H・Kくんはいつもお昼はオニギリを2つ握ってくるだけなので、私の方が食べるのに時間がかかり、だから私は少し急いで食べる必要がある。

最初のうち私たちは同僚や派遣の人の悪口などを言い合っていたが、そのうちに所長が室内を通りかかったりして(その部屋は通路も兼ねているから)私の座っている方は日が当たっているものの、H・Kくんのほうは影なのでサムいのではないかと言いだし、私が先輩風を吹かせて
「大丈夫ですよ」
と言うと、
「そりゃ君の方は日が当たっているから暖かいよ」
と言って暖房のスイッチを入れた。

ところでH・Kくんは先日に長く付き合った彼女と別れており、そのことを私は年が明ける前には知っていたが、長く付き合ったからおそらく穏やかな別れであり、だから私もあまり気を遣う必要はなかった。
「今度の土日、ぼく土曜日休みなんですけど、金曜も休もうと思って」
「いいと思うよ。まだ彼女もいるの?」
「います。アパートの契約は14までなんですけど、まだ片付けてなくて」
「そういうのって、気を遣うものなの?」
「相手はわからないですけど、ぼくは遣いますね。でも犬もいるんで」
「ああ、そうだね。犬がいると。でも犬ってたしか元々彼女が飼ってたやつだよね」
「そうです。だから今のうちに可愛がってやろうと思って」
「犬も「ご主人たち、なんかあったんかなあ」とか思っているかもしれないね」
「どうですかね。でも犬って人の感情読むみたいですね。「犬の前であまりイライラしたりしない方がいい」て本にも書いてありました。猫はそんなことないです。噛むときも本気です」
最近私の義妹が犬を飼い始め、その犬は私のほうへかけてくると、決まって私の手を甘噛みする。H・Kくんは猫も飼っているが、猫も彼女が引き取る。
「子供と別れるのと一緒ですね」
「月に一度会わせるとか取り決めができればいいのにね」
「犬の方はわからないですからねぇ」
そのときドアが開いて、地味な女の事務員がやってきて、テーブルの端をふきんで拭いて、また出て行った。私たちがいるとは思わなかったのだろう。事務員は黒のカーディガンを着ている。

ここで突然だが、小島信夫「うるわしき日々」の中で、保坂和志と思われる小説家が話の中で出てくる部分を引用する。

「ぼくの若い友人の、ネコのことを書いている小説家が、ネコに死なれるとたとえば近所の顔見知りのネコの場合でも、親せきの人間が死んだときより、ずっと悲しい、それは本当に悲しい、といっていた」
「どうしてなのでしょうね」
と、老作家はその若い小説家に訊いた。
「そのネコと自分との間柄は、一対一ですからね。人間は悲しんでくれる人がいくらでもいるでしょう。けれどもペットほど自分と信じあえた間柄のものはどこにもないと、みんな思っているんですよ」

p284

小説の中で保坂和志は、「若い小説家」と呼ばれているが、若い小説家は、もう一人登場するので、この次はそれを取り上げたい。