2019-11-01から1ヶ月間の記事一覧
3年になると、今井さんがメインの友達になった。今井さんは陸上部だから、いつも一緒に帰れるわけではなかったが、生徒会のある日はお互いに待ち合わせをして帰る。クラスでは特定のグループと仲良くしたりしないが、今井さんとは常に一緒だ。 今井さんとい…
合唱コンクールが終わると、誰が宣言したわけでもないのに金曜の5時間目の学活が、選挙への準備の時間となった。それぞれ担当を決め、タスキやノボリを作ったり、演説のスケジュールを決めたりする。愛華は演説の内容を考え、明日の朝に発表しなければならな…
芳賀くんに生徒会を誘われたのは、合唱コンクール本番の1週間前で、4時間目の後、給食当番で小サイズの食缶を1人で運んでいる時だった。中身はコロッケだから、そこまで慎重になる必要はない。そんな時、トイレ帰りを装った芳賀くんに、斜め後ろから声をかけ…
職員室の前まで来て全員の足が止まる。ドアを開けるのには心の準備がいるし、誰が代表で話をするかも決めていなかった。前田くん1人に謝罪の言葉を述べさせるのは無茶な気がするし、30人余りで乗り込んでも、タヤマ先生の前に全員が並べるわけもない。誰かが…
体育祭が終わるとすぐに、合唱コンクールの練習が始まる。全学年のクラスがそれぞれ課題曲を選び、近くの市民文化ホールを借り切って歌って順位をつけて思い出の1ページとなる。ここまでする学校は、他にはないらしい。うんざりした顔でタヤマ先生が教えてく…
予行練習の時にも姿を見せなかったタヤマ先生だったが、体育祭当日になると、観念したように本部テント脇に他の教師と並んだ。愛華は、当日タヤマ先生がどんな格好をしてくるのか楽しみだった。なんせ普段は黒か紺のスカートに白やグレーのブラウスしか着な…
佐藤さんたちとのメールのやり取りは、夕ご飯を食べ終わったあたりから本格化する。しかしここであまり盛り上がってしまうと、お風呂に入るタイミングを逃してしまい、お母さんの怒鳴り声を聞くはめになる。それも鬱陶しいので、最近では食事を済ませたら速…
2学期になって改めてクラスの係を決める時になると、音楽係に立候補する者は愛華以外いなかった。1学期の時は定員2名に4人も手を挙げたのに、今やすっかり不人気の係となってしまった。おかげで愛華は悠々と黒板に自分の名前を書くことができた。1学期の時も…
芳賀くんとは2年で同じクラスになり、進級してわずか1週間でそのことをタヤマ先生に話してしまった。「新しいクラスにいい人いた?」という問いに、まず最初に彼の名前が浮かんだ。単に目に留まっただけの存在だから「特にいない」と答えればよかったが、し…
「その芝生田って子はね、この前一家揃って夜逃げしちゃって行方不明なの。そんで、どうしようかって話。まあ退学にするんだけど」先生がぽつりと言った。てっきり書類を綴じるのに夢中になっていると思ったのに。愛華は一気に血の気が引いて、思わずその場…
後から友達に聞くと、それは2年の音楽を担当しているタヤマ先生だと教えてくれた。なんとなくひと言くらいはお礼を言った方がいいかと思ったが、わざわざ職員室まで出向く気にはなれない。話しているところを誰かに見られて、何を話していたのか聞かれるのも…
門を出て右に曲がり、校庭に沿って歩く。垣根が植えられているが、葉っぱはすかすかで中の様子がよく見える。すぐそこは野球部、その向こうはサッカー部。陸上部はそのさらに向こうだ。芳賀くんはバスケ部だからこの中にはいない。掛け声や金属音が至る所か…
10月の体育祭では、競技の他に男子は組体操、女子は日本舞踊をやることになっている。全生徒で、だ。そのため夏休みが明けると、体育の時間はこれの練習になる。準備体操の後、教師の動きを見ながら、手を広げたりしゃがみこんだりする。いくらか出来るよう…
店を出ると人通りはあまりなく、少し歩くと前にいるのは、しわくちゃのワイシャツの中年サラリーマンだけになった。車を停めたのは不動産屋の先の信用金庫の駐車場で、駅から離れているそこは、夜でも施錠されることはなかった。私は不動産屋に貼られた物件…
これは国道n号線についての散文である。意を決して彼女をメールで誘ってみると、特にためらう様子もなくOKの返事がきた。すでに9月も半ばになっている。あの一件以来、電話をしても大した盛り上がりもなく終わってしまう。それなりに楽しく話したつもりでも…
それから4日後の授業の時、ミキちゃんに髪留めを渡した。こちらから何かをいう前に「行ったんだ、デート?」とはしゃぎ声を上げた。私は家族旅行と嘘をつこうと思っていたが、ばればれだし現にこうして見破られてしまったので、素直に認めることにした。「ど…
最初から薄々わかっていたが、笠奈は熱心にメールや電話をする女ではなかった。兼山に気づかれないようにと、塾でも声を交わすことはない。だが、これまではミキちゃんのことなどを普通に会話していたのに、これではかえって訳ありっぽくて怪しくないだろう…
3日後の夜中に笠奈から電話があり、私も君の事好きみたいと言われた。とりあえず布団を蹴飛ばしてベッドから降りた私は、電灯の紐を引っ張って明かりをつけ、その紐にしがみついたままかろうじて返事をした。笠奈はそんな私に構う事なく、とりあえず兼山さん…
「出ようか」 そう切り出したのは笠奈の方で、その時はお互い無言のまま10分は過ぎていた。途中で笠奈がトイレに立ったので、もっと過ぎたのかもしれない。その間私の頭の中は、言うまでもないが兼山でいっぱいだった。笠奈に「(自分が付き合っているのは)…
卒業シーズンだからというわけでもないだろうが、高校時代からの仲間の1人が就職することとなった。それじゃあお祝いでもしてやろうということになり、仲間5人で集まって飲み会を開くことになった。場所は笠奈とも何度か行ったことのある居酒屋だった。そう…
3月から笠奈のアメリカへのホームステイが決まり、その間、ミキちゃんの授業を見ることになった。笠奈も受験生を受け持っていたが、その生徒は2月の末には第一志望に合格した。笠奈は、誰からも無責任な女と後ろ指をさされる事なく旅立って行った。もしその…
笠奈はクリスマスは家族と過ごすらしい。結局クリスマスの話題になって「どこでデートするの?」と聞いてみると、その日は母親の仕事が遅くなるために、代わりに夕飯を作らなければならないとのことだった。でもそれは、クリスマスイブのことで、だったらク…
ミキちゃんの「協力してあげるよ」はどの程度の効果をもたらすのかは不明だが、それに期待をかけるのは、いくらなんでも軽率だろう。何より、倫理的によろしくない気がする。いや、恋愛に倫理も何もないのだが、要するに情けなさすぎるだろ自分、て感じであ…
前述のルール通り、今日は笠奈を迎えに行かなかったので、帰りは自転車で並走した。秋が深まって風が冷たくなり、パーカー1枚では肌寒い。昼間との寒暖差が大きく厄介な季節だ。「酔いも覚める」と2人で文句を言いながら向かい風に自転車を走らせた。暗闇の…
それからは、笠奈と2人で飲みに行くのが恒例となった。頻度としては月に1、2回程度。初めのうちは、飲んだ後に、もしかしたらホテルに流れるみたいな事もあり得るかと、無駄にコンドームを財布に忍ばせたりしたが、当たり前だがそんなのは杞憂に終わり、私達…
二学期になって、最初の授業の終わりに兼山に声をかけられ、ミキちゃんのことを受け持つことになった。数学と理科。「お前どちらかと言えば、理系だよな?」と、一応は疑問系の体裁で聞くが、完全に決めつけられていて、こちらの意見など全く聞く素振りもな…
最初に根を上げたのは、二階堂だった。笠奈が「なんか二階堂ちゃん、気持ち悪いみたい」と後ろから報告してきた。葉山は「了解」と短く答えたが、何をする風でもなかった。こんな所でどうすればいいんだ、という感じだったが、しばらく行くとパーキングがあ…
葉山の車は、私の車すぐそばにあった。駅前でなおかつ夜中でもタダで停められる駐車場なんて、限られている。シルバーのプリメーラ。聞いてもいないのに「親の車なんすよ」と言ってきた。本人の車だとしたら、私が憤慨するとでも思っているのだろうか。まあ…
駅前のスーパーの駐車場に車を停め、そこから5分歩いた先にある白木屋で打ち合げは行われた。参加したのは大学生ばかりで、兼山や中年の講師たちの姿は見えない。全部で10人くらいいたが、一続きのテーブルは確保できなかったようで、席は二つに別れた。私は…
夏期講習はお盆までには全日程が終わり、お盆明けの金曜日に講師たちで打ち上げをやることになった。どうやらそれは恒例の行事らしく、講師用掲示板の真ん中に、堂々と手書きのチラシが貼られていることからも、それが判断できた。タイトルは女の子っぽい文…