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意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

ガソリンの蓋

私はふだんセルフのガソリンスタンドで給油するが、とうぜん給油口の開け閉めもセルフであるがどういうわけか気を抜くと開けて置いといた蓋をそのままにして行ってしまうことがある。今までに二度か三度やらかしたことがあり、その度に私は、ガソリンスタンドの店員に
「あのう、朝ガソリン入れたときに、うっかり給油口の蓋を閉め忘れて置いてきちゃったんですが、届けられたりしてないですか?」
と問い合わせるのが嫌で嫌で仕方がなく、さっぱりと諦めて新しいのを買いたい気持ちになる。ガソリンの蓋っていくらだろう? もし1000円以下なら、私の憂鬱な気持ちを吹き飛ばして十分に割に合う。しかし私は大人だから、一応は店員の元に行く。ガソリンを入れるわけでもなく、さらには洗車とか車検とかそういう積極的に店側の利益にかなわない場合の駐車スペースが、ガソリンスタンドの場合かなり曖昧なので私はいつも迷ったあげくに事務所の入り口に横付けする。図々しいやつだと思われたくなくて、素早く車を降りる。そうして勇気を振り絞って店員に訊ねると、いつも100パーセント
「これですね?」
と差し出される。間違いなく私が忘れていったこれといった特徴のないプラスチックの蓋だった。色んなデザインの車があるが、ガソリンの蓋に関しては色気もなにもない。それはもしかしたら私のでない可能性もあるが、径が合えばなんでも良かった。合わなくてもセロテープとかガムテープでくつければ用は足りた。私は子供のころは実にたくさんのセロテープを消費したから、セロテープで固定するのは得意だった。例えば新聞紙どうしをつなげるとき、多くの人はテープを横向きに貼り合わせていくが、私は辛抱強く縦に貼ったりした。子供のころ友達の
「自分だけのロボをつくる遊び」
を行うことにし、ただつくるだけではつまらないから、私は
「変身機能をつけよう」
と提案し、それぞれの家に帰った。ロボを作るのにわざわざ顔をつき合わす必要はなかったからである。私は戦車に変身するロボを作ろうと思っていて、実は変身機能の提案時にはすでにそのアイディアはあった。だからいろんな人が日々色んな提案をするが、そのときその人には自分が有利になるアイディアを秘めているから、相手の提案に簡単に乗ってはならない。

私のアイディアとは、麦茶の箱をボディとし、そこに細長い箱を脚として片側だけテープで固定しそれが前方に折り曲がる仕掛け、人間に例えると前屈をしている体勢となり、そのときに直立時には脚だったぶぶんがキャタピラになるという仕掛けだった。実際キャタピラを脚にするくらいなら、キャタピラのまま移動した方が効率が良さそうだが、子供に効率だなんだ言っても始まらない。私は自分のアイディアに満足していた。しかし脚は良かったが、それ以外は平凡で、特に直立時は背中に大砲を背負うようになるが、その大砲がなかなかうまくできなかった。筒のぶぶんが円筒形で、私は子供のころは直線や四角が得意で、逆に曲線や円形は苦手だったのである。よく昔の子供の図鑑には、自分だけのスキー板をつくりましょう、みたいはページがあって、それは竹でつくるのだが、板の先を反らせるのに、火であぶりましょう、大人が近くにいるときにやりましょう、みたいな文句があったが、あぶられて上に反っていく竹を見ると気が狂いそうだった。自作のスキー板なんて非現実的だったが、私の子供のころは、埼玉でも結構な雪が降ったのである。

私が大砲に苦戦しているうちに友達はロボを抱えてやってきて、それは飛行機に変身するロボで、なんてことはない、単に両脇にそれぞれ直角の腕をつけ、横置きすると飛行機に見えるだけの代物だった。私は友達の浅はかさに呆然としてしまった。友達の方は私のアイディアに感心していたが、やがて飽きて帰ってしまった。私は自分のロボを披露する機会を失ったが、そもそもそれは完成することはなかった。