意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

なんでもご相談ください

帰りにコンビニに寄ると、それはもう夜の話で、駐車場はめちゃ混んでいて、もうUターンして帰っちまおうか、と思ったが建物の側面は空いていて、ひょっとしたらそこは従業員用の駐車場なのかしらんと思ったが、構うものかと、RV車の間に後ろ向きに停め、すると正面にある建物が接骨院だった。

ところで接骨院整骨院というのがあるが、整骨院というのは正式名称ではないらしい。すべて、接骨院なのだそうだ。そう教えてくれたのは、以前私が腰をやったときに駆け込んだ(実際は痛いのでよろよろと行ったのだが。その接骨院は入り口が引き戸で店の名前や診療時間を書いた紙をぺたぺた貼るもんだからどこに手をかけていいのかなかなかわからず難儀した)「接骨院」だったので、もしかしたら嘘を言っているのかもしれない。そこの代表施術士が童顔で、私は最初アルバイトの人なのかと思った。アルバイトは別にいて、その人は私の昔の知り合いに似ていて色黒でメガネをかけていて若くても髪には白髪が混じっていて、ぼそぼそと喋る。山中と言ったが、一瞬マジで山中なのかと思った。もし山中なのだとしたら、彼は中国に詳しいはずである。中国に兄が留学していて、彼も追って留学する予定だった。そしてやがて実際に留学し、それ以来会っていない。接骨院のほうの山中は、なんと私と下の名前がおんなじだったが、私は一度もマッサージも、電気もされることなく、やがて山中は姿を消した。
「ええ、まあ、やめました」
代表施術士の岡林は言いづらそうに答えた。顔ははにかんでいた。それから、
ドラクエ10とか、やりませんか?」
と言ってきた。私は7までやりましたよ、と言うと、
「じゃああと3つですね。10引く7で、3

変なことを言うやつだな、と私は岡林の顔をもろに見たくなったが、私はそのときうつぶせで、尻のあたりを思い切り押されていた。痛い。
「それじゃあ電気流します」
その日は患者が多かったので、先にマッサージしてから電気になった。いつもなら電気が先で、私もそのほうが良かった。
ドラクエ好きなんですか?」
「はい。リアルタイムで始めたのは5からですが、あとから全部やりました」
やっぱり。
「それじゃあBGMもドラクエでいいんじゃないですか?」
室内の音楽はジブリのオルゴールコレクションであった。
「ええ、まあ、いいアイディアですね。820円になります」
私は家で洗濯物を干すときにぎっくり腰になったので、仕事中ではないので、健康保険が使えた。後から友達に言ったら、
「高いよ」
と言われた。

それで、私が車を停めたローソンの正面には特に私とは関わりのない接骨院の建物があり、そこの電光掲示板には
「なんでもご相談ください」
という文字が左に向かって流れ、それから電話番号が流れた。ここへ電話しろといういみである。私はたかが一接骨院が、ずいぶん大きく出たもんだ、と思い、それとも本当になんでも相談していいのだろうか、という意味にもとってみた。かつて私も人の相談を受けやすい仕事をしていたことがあり、そんなとき私も同僚も自分にできることよりも、まずはこれができません、ということを相手に示すことから始めて、私はずいぶん後ろ向きな勤務態度だな、と思った。インターネットなどを見ると、仕事には前向きに取り組むべきという風潮があり、キャリアはアップさせていくものだという風潮があるので私はいくぶん後ろめたくもあった。しかしその頃はインターネットなんて、地図を調べるくらいにしか使わなかった。

それで私がなんでも相談してもいいよと言われたら、何を相談するのかと言えば子供のことで、子供が勉強しなくて困ってますが、しかし私自身が勉強する意味というのがわからない、勉強が好きならいいが、そうじゃないなら好きなことに打ち込んだ方がいいのではないか、勉強とはすなわちそういう打ち込むことのない人が仕方なく行うものであって、翻ってみるとじゃあおたくの娘さんはなにが好きなんですかと訊かれたときに、アイドルとかテレビが好きで、アイドルやテレビが好きというのは、果たして好きのうちに入るのか、ひたすら甘やかされているだけの装置である気もするが、しかし好きは好きだ。そうすると最初の命題が間違っていて、つまり勉強は好きなことを我慢して行うべきなのかもしれない。しかし、好きなことというのはそうやって後回しにしても待っててくれるものなのだろうか。後回しにして、そのうちに好きでなくなったら、その程度のものだったんですよ、という理屈があるが、それじゃあいわゆる成功者と呼ばれる人は、みんな大してタイミングなど気にしないのだろうか。