目医者へ行ってきたら、妻の予言通り混んでいて、うるさい老爺とうるさくない老爺が話していてうるさかった。私が年をとったときには、どちらのタイプになるだろうか、と考えた。どちらの可能性もある気がする。
混んでいる原因は眼科と思って行ったとあるショッピングモール内の二階にある眼科だったが、内科も併設されており、受付に向かって両側に扉があり、左が内科で右が眼科だった。左が父で右が娘だった。父はあまり体調がすぐれないらしく、内科はやっているときとやっていないときがあり、会計の際診察券を渡されながら、
「内科を受診したい場合は、やってないときもあるから予め電話をしてください」
と言われた。それと奥にも扉があって、それは関係者の扉かと思ったが、関係ない人も出入りしていたから不思議だった。あと、検尿をした女の人が採った尿を受付に持ってこようとして、後ろから看護師が、
「尿は小窓に、小窓に出してください。トイレの中に小窓があったはずです」
と注意していた。私は小窓にはカーテンが引かれていたに違いない、とか想像したら。検尿コップは私の目の高さにあった。
私は長い待ち時間を小島信夫の短編集を読んで過ごした。中期の短編集で、夫婦のやりとりに、私は自分の妻とのやりとりを重ねた。どういうやり取りなのかは触れないが、私はふだん他の人のブログを読んでいて、こういう夫婦が出てくることはまずない。
「眼」という短編では妻が手術のために入院する前後の話で、解説には「抱擁家族」の前の作品、とあったので、夫人はまだ死なないが、やがて死ぬ。抱擁家族のときは間違いなく死んでいたが「眼」を書いていたときはどうなのだろう。「眼」は語尾がいきなり話し言葉になったりしてそのために他のどの作品よりも柔らかく、力が抜けた感じになっていて、読んでいてセンチメンタルな気になった。
家に帰って寒かったので、無駄に食べて無駄に寝た。
子供の学校のクラスがいくつか学級閉鎖となり、また閉鎖にならなくても自身が閉鎖となった児童もいたりして、子供が通学班でひとりになり、私が迎えに行かなければならなくなった。子供はまだ健康だったが、明日以降はわからない。車を停めた公民館が、学校の門の反対側にあり、私は学校のまわりをぐるりと歩かなければならなかった。歩くのに飽きると走り出した。フェンスの向こうに校庭があり、そこで上級生が体育をしていた。何人かの生徒が走る私を眺めていた。フェンスには木がめり込んでいた。木のあったところにフェンスを設置したのか、フェンスのところから木が生えたのかは知らないが、それらは一体化し、離せなくなっていた。ごく最近に木は全部切られたのだが、フェンスと一体化されたぶぶんだけは残され、丸太がフェンスに刺さっているような情景となった。