意味をあたえる

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土手の亡霊(詩)

土手の上で亡霊がゆれている、ゆらゆらと。陽炎のようである。亡霊の足下には犬のウンコがあり、亡霊はさながらウンコから立ち上る湯気から発生したようである。亡霊はウンコになる前は犬の腸内にいた。腸内は町内である。角の床屋のベンチに、亡霊は座っていた。床屋は奇妙な床屋であり、男性用小便器が、壁に剥き出しになって設置されていた。別に奇妙でもなんでもない。亡霊の座るベンチは小便器のそばであったから、亡霊は
「くさいなー」
と思っていた。夕暮れであったから、夕日に照らされて、尚更臭かった。亡霊は別に散髪をしてもらいたいわけではなかった。ガラス戸の中を覗くと、そこは畳屋であり、畳を削るカッターがものすごい勢いで回っている。裁断機は苛ついていた。たくさん汗をかいていて、汗のせいで機械の脚の部分は錆びていた。しかしそれはずっと前から錆びていた。錆びの感じは、ぼつぼつしていて、鯖の背中ようであった。
「あついよう」
鯖は泣いていた。閉め切っているせいだ。床屋(畳屋)のとなりの息子はぐれている。毎夜たくさんの単車が集まってくる。単車は外灯に照らされている。外灯には細かい虫が集まってきていて、それは光を目指すが、一部は勘違いをし、単車の外装が反射する安っぽい光にも寄ってきている。遠目に見ると単車の輝きは増しているようだ。外灯の根元には、また、バス停もあった。
「70円です」
運転手が言った。それは子供料金である。単車は手がないから払えない。大人料金は130円です。大人料金の半分が子供料金だが、一円単位は切り上げとなる。バスは祭へ向かう。川越祭りである。川越祭りでは、聖闘士星矢の天秤座のゴールドクロスが売っている。亡霊は母から借りた手ぬぐいで、素早くその箱を包む。便器がむき出した。家に帰ったらティッシュの箱をカッターで切って、お手製のケースを作成する。その際親指を切った。床屋が知らんぷりをしていたから、切ってしまった。亡霊は責任転嫁をした。床屋は面倒くさかっただけだ。早くゴールドクロスで遊びたい。単車が金色に光り出した。畳屋の鯖が窓からその様子を眺めている。ナショナルジオグラフィックに投稿しようと考えている。カトチャンケンチャンご機嫌テレビ。ビデオ投稿コーナーではなんと、ビデオカメラを貸し出していた。そのままネコババする人はいなかったのか? それとも、カメラは空き箱でできていたのか。カッターで切っていたら指まで切った。亡霊は責任転嫁する。そのあと母に連れられて、ダイエーで刺身を買う。親指に巻いた絆創膏に血が滲んでいる。絆創膏は、バイクの座席のようだ。柔らかそうで、かたい。鯖と同じだ。鯖は錆びた。バイクは錆びた。バスは錆びない。今はつぶれてしまった山崎ショップの駐車場内に、バス専用の洗車機がある。それは巨大な輪の形をしている。バスはサーカスのライオンのようにそこをくぐり抜ける。ただし、輪は燃えていない。燃えたのは単車だ。付着した羽虫も燃えた。畳は無事だ。鯖は安心した。鯖は焼かれた。ダイエーの鮮魚コーナーはビニール手袋をはめている。弁当屋のような帽子をかぶっている。ゴールドクロスを纏っている。鮮魚コーナーは天秤座ではない。乙女座だった。両親がクリスマスにセックスをして、生まれた。乙女座は頭でっかちだ。夜空で横たわっている。頭の周りを羽虫が飛んでいる。鮮魚コーナーは天文学者になりたかった。頭も良かった。ただし、学校でウンコをもらした。担任はそれについて学級会を開き、裁判のようになった。机をコの字に並べた。ウンコを受け止めるには、何本のスプーンが必要かという議題だった。生徒は全員鯖だった。担任は畳屋の倅だった。嘘だ。女だった。先割れスプーンだ。箸を忘れた生徒は保健室へ向かう。途中でオルガンが通せんぼしている。オルガンの中に階段が隠されている。鮮魚コーナーが怒り出した。おい、うるせえよ、三年、オルガンくらいで興奮すんじゃねえよ。あれ弾けよ、ドラゴンクエスト。シシシソソソドレミファミレ・ミファソドソミミソラミソラ美空ひばりアベル、ヤナック、モコッチ、女、女2。亡霊はドラゴンクエストが見たいから、サッカー少年団を退団した。退団手続きは、プールの更衣室の前で行われた。プールカードが必要だった。三年はカードの端が緑色だった。更衣室の横には、鉄条網が張り巡らされている。夜に誰かが忍び込むのを防ぐためだ。誰かが単車を放り込んだ。単車は死体だった。第一コース、頭部。第二コース、胴体。第三コース、足。第四コース、目玉。バラバラ死体を、羽虫が上空から眺めている。羽虫は野球部のグラウンドの照明に寄ってくる途中だった。だから南中には行きたくないんだよ。南中は古いから幽霊が出る。古いから土手のそばに建っている。太平洋戦争のときの防空壕が、土手の向こうにある。その中で二組のC子と野球部のスナガがセックスをした。という噂が二学期に流れた。衝撃的だった。C子は夏休みがあけると髪を短くした。髪が汚れてしまったのかもしれない、と亡霊は解釈した。しかし防空壕を訪れると、そこにはぼろぼろのエロ本が一冊捨ててあるだけだった。C子はエロ本の妖精だった。