意味をあたえる

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小島信夫「うるわしき日々」

先日頼んだと言った付箋が届いたので、さっそく貼ってみることにした。今読んでいるのは小島信夫「うるわしき日々」(講談社文芸文庫)である。せっかくブログもやっていることだし、その部分を引用しようと思ったが、肝心の本を持ってくるのを忘れた。家で書けばいいのだが、家族がいる前でスマホを広げたり本を広げたりというのは格好がつかないから、外出先で書こうと思ったのだ。ちなみに出かける先は実家で、お米を取りに行こうと思ったのである。私の父は田んぼをやっていて、そこは細かく言えば父の田んぼではないが、そこは地下水が沸いているから隣の米よりも美味いと言う。本当かどうか疑わしい。

しかし私は実家に行ったらお茶とか出てきそうだから、後回しにした。先にレンタルビデオ店に行った。行って気づいたが、私はレンタルビデオ店の雰囲気が好きではなかった。大声で会話する若者の声も嫌だったし、店員の態度も気にくわない。とても丁寧だが、今日のやつは私と手がぶつかったが何も言わずに返却日の説明を続けた。
「ご返却は明日1月1日午前10時までとなります」
私はもう二度と来たくないくらいの気持ちになったが、しかしそこのレンタルCDのジャズコーナーは、レンタル店とは信じられないくらい充実していた。私はエリックドルフィーとマイルスを借りた。

〈今日一日を生きるということ。それにしたいことをするのがよく、したくないことはしないで、したくなるまで待つのがよい〉
〈夫婦だから愛し合いつづけなければならないといったって、無理に愛し合おうとするのはよした方がいい。人間があるとき相手を気に入ったからといったって、そのうち色々と互いに変化して当たり前である。そうなったら別れたっていいじゃないか。だからといって別れるのはラクなことではない。しかし無理をすることは止めたらいいのではないか〉
〈私も自動車が好きでよく乗るが、運転中、突然ある思いに襲われることがある。そういうときには、私はその思いをやり過ごすことにしている。こうしたことが容易にできるわけではない。そこでなるべくいつも仙骨ラクにすることにしている〉 
 Zさんと夫人とは、数年前に別れたようである。
〈夫婦も時がたてば気に入らなくなるのは自然のことである〉
 というようなことをパンフレットに述べられていたのは、その頃のことだ。また、六、七年前に、
〈子供が嫌がっている食物を、無理矢理に食わせる必要はない。子供自身が好くものは、子供にとっていちばんいいものだからだ〉
 とパンフレットに記されていた。この考え方をめぐって、Zさん夫妻は争ったのではあるまいか。
(p142)

長くなったが、私はここを読んで吹き出した。しかし今これを読んだ人は吹き出さないと思う。一応補足すると「うるわしき日々」はとても暗く、絶望的な話で、主人公の息子がアル中で記憶をほとんど失い、しかし親である老作家夫妻はもう80歳を過ぎていて、しかし入院先を追い出されそうになるものの受けいられず、必死に新しい施設を探すのである。上記のシーンは、奥さんもおかしくなってきて、すがるように自己啓発みたいなグループ(Zさんが親玉)を訪れるのだが、そこでZさん夫妻の離婚の原因を邪推するのが面白かったのである。

引き続き、面白いところがあったら引用する。